中村べむ

中村べむ

最近の記事

若い日、些細な泡に

生きていくべきか、死ぬべきか、それが問題だ この台詞を初めて知ったのがいつだったかは思い出せないが、自販機で水が100円で売られていることを知ったのは小学4年生の時だったと思う。 自転車に乗って、足腰自慢大会のようにして登った坂道の先に、広い公園があった。たしか、誰かの家の近くだったからそこに遊びに行っていたような気がするが、それが誰だったかは、もう記憶に無いし、その公園への行き方ももう分からない。 私たちは坂道に落としてきた水分を補給するべく、毎回必ずその自販機で飲み

    • 面白い鹿になりたい

      小説を書きたいと思ってnoteを開いたのだが、面白い鹿になりたいという気持ちになってお布団にくるまってTwitterを開いてしまった。Twitterを開いたら開いたで、ページの右側のトレンド欄にある流行り病関係の話題を見て、再び面白い鹿になりたくてnoteに帰ってきた。 小説を書いている時間は、ただスマホを眺めている時間よりも生産性があって有意義なように思えるので、生活の中にあるべきと考えてしまうのだが、毎日のように上手くいかなかった残骸を下書きに捨て、起承転で点を打った肥

      • サイバー・フィッシュに何を想う

        無機質な海には、いつもくだらないゴミが流れる ゴミに紛れて泳ぐそれが、あっちにたどり着く頃にはモジャコからイナダ、もしくはシラスからコバ。 サイバー・フィッシュの耳には盗聴器、目には小型カメラ サイバー・フィッシュが流れていくのを、私は死んだ何かのような目をして見守る サイバー・フィッシュに何を想うか、私はあなたに問いかけた あなたは何も言葉を発せずに、サイバー・フィッシュと少しの海水を小さなビンに詰めて、海に流した それからどれほどの時間が経ったか、体感では1秒

        • Fiction of the Poetic Planets 『蔓の星』

          『蔓の星』を、探していた。何かを求めて探していた。 『蔓の星』は、その何かでは無かった。成れなかった。 『蔓の星』は、私たちを探していた。私たちを求めて、私たちを探していた。 『蔓の星』は、悲しんだ。私たちから見て、星は星だったから。 『蔓の星』が、私たちを探さなくなったとき、私たちは、すでに虹を見ていた。 『蔓の星』は、鋭い熱をもっていた。熱を失うことを恐れて、熱を大事にしていた。 『蔓の星』は、熱を零していた。熱を失うその先に、何かは動かない。それを知っていた

        若い日、些細な泡に

          A person

          電車に乗って、ガラ空きの椅子に腰をかけて、本を読んでいる。 私は宇宙の本が大好きだ。だから今日も宇宙の本を読んでいる。 どのくらい時間が経っただろうか、ふと外に視線をやると、そこには何も無い。比喩的な表現でなく、ただ何も無い。建物が無いだけではなく、何もかもが無い気がしている。恐怖すらもはや感じない。 ガラ空きの車内はガラ空きのままだ。変わった点があるとするならば、私が変わっている。私ではない。私は宇宙の本なんて読まない。宇宙の本なんて大好きじゃない。そもそも本当にここ

          大きめのダルマ

          うちのリビングには、大きめのダルマが置いてある。 どのくらい大きめのダルマかというと、小学校の頃にダルマの身長を追い抜かした記念でケーキを買ってもらったことがあるくらいだ。 でも、なんでリビングに大きめのダルマが置いてあるのか、未だに聞くことが出来ていない。家に友達を呼ぶと必ずこの話題が上がるのだが、理由を問われても上手く答えることが出来ないのが非常にもどかしい 今日こそ、この大きめのダルマが何なのか、問い詰めてやるんだ。 「ただいまー」 「あ、母さん、ちょっと話が

          大きめのダルマ

          あいつの話をしないか

          さくらんぼ狩りとかしたいよね。さくらんぼって、イメージとしては2つで1つのさくらんぼ、みたいな感じあるけど、実際に木についてるのを見ると、そうでもないよね あああああああああああああああああああああ あとさ、じゃんけんとかさ、あるじゃん。じゃんけんってさ、3つのそれぞれの手がないと成立しないのよ。全部が敵同士だけどさ、1つでも欠けちゃったら存在できないのよ。そう考えると、じゃんけんも集団だなーって思っちゃうのよねー あああああああああああああああああああああ 「あいつ

          あいつの話をしないか

          色々灰色

          空が曇った 日に照らされていた看板たちが次々と息をひそめ、次の出番に備えようとしている 私は灰色の商店街のアーケード、その真ん中に立っている 肩から下げたカタルの不思議な重みが全身をつたっていき、やがて指先にまでその振動が到着したところで、私はカタルの弦を指で弾いた いつ聞いても不快な音色だ。だが、私はこの音色と、この音色にふさわしい風景を求めてここに立っている 去年の、ちょうどプロ野球のペナントレースが終わった頃だっただろうか、この商店街の賑わいが冷めて、シャッタ

          私の足がキャタピラになってしまったのだが

          「今日はどんな髪型にしますか?」 「この下半身に合う感じで」 ーーーーー リーゼントにされてしまった。いやいや、確かにこの下半身に一番合う髪型かもしれないけどさ、限度ってもんはある まぁ、この際どんな髪型でも同じかぁ… 「ねぇねぇお姉さん、ちょっとお茶でもしません?笑」 恐ろしく目が悪いのか、この男は。恋は盲目とかそういうやつ?? かわいそうに ーーーーー それにしても、本当に災難だったな、私も彼も。 全速力で転がして逃げてきた、神様はどこまで私に恥をかか

          私の足がキャタピラになってしまったのだが

          もしも、痴漢した手がサイボーグアームになる世界だったら

          あっ、あのおじさん、サイボーグアームだ・・・ かっけ~~~~~~~~~~~~~~~^^; いかんいかん、奴は性犯罪者、虐げられるべき存在だ。は~ぁ、敵国の武将である織田信長に憧れて自ら部下になった高橋恥秀もこういう気持ちだったのかな。まぁそんな奴いないけど。 どういう仕組みかは分からないが、我が国では痴漢した手が痴漢した手が5分ほどでサイボーグアームに早変わりする。 そのおかげで、痴漢の加害者が一目で分かるようになり、サイボーグアームお断り電車なんかも当たり前に走って

          もしも、痴漢した手がサイボーグアームになる世界だったら

          色と捉えて

          無機質な絵を描いた。木綿豆腐の絵を描いた。 キャンパスは白い、木綿豆腐も白い。なのに、白い絵の具で塗らなければならないらしい。美術の先生がそう言っていた 同じ色で塗るという行為に、私は意味を見いだせない 「ミミ、なかなか上手く描けてるじゃないか」 そう言って父さんは私の肩に手を乗せた あ、私はミミ。カタカナでミミ。耳の大きい赤ちゃんだったから、こう名付けられたらしい 今の時代にカタカナの名前は珍しいから、「変わった名前だね」なんて言われてしまうこともあるけれど、私

          色と捉えて

          Habit

          怖井くん、どうして私を怖がるの? 「怖い……」 君をナイフで刺したから? 「怖い……」 君の事を何でも知ってるから? 「怖い….…」 もう!今日も怖井くんは不思議ねっ 『京子〜ご飯よ。いつまでお人形遊びしてるの』 はーいママ、今行くよ! … 「怖い……」

          不幸な君にジンクスを

          亀に2回お辞儀をする。そして、愛する妻に「愛してる」と言う。 この2つが僕の習慣であり、これを欠いてしまうと不吉なことが起こるという❝ジンクス❞でもある。 今日もこの2つをしっかりとこなして家を出た。あ、もう亀のエサ無くなったんだっけか。仕事帰りに買ってこなきゃだな。 ーーーー マンションのエレベーターの中で、牛丼の並盛と亀のエサが入った袋を手にぶら下げて溜息をついた。 「ただいまー、キャメロン。エサ買ってきたぞー」 キャメロン1匹には勿体無いくらい立派な水槽にエ

          不幸な君にジンクスを

          昭和レトロ、平成オムツ

          平成最後の夏、平成最後の秋、平成最後の冬、平成最後の春 我々、「平成最後取締委員会」ではこれらを全て管理している。 そんな我々の仕事も今日で終わりを迎える。平成最後の失業だ。 明日から何しようか。パン屋さんとかやりたいな。ぱんぱーんぱんぱーんぱんぱーす パンパースに就職するかぁ あ、おむつパンのこと考えてたら元号が発表されてしまう。平成よりかっこいい名前だったら嫌だな 『え~新元号は』 (ドキドキ) 『江川太郎左衛門』 江川太郎左衛門!? やっぱりパン屋さ

          昭和レトロ、平成オムツ

          二日酔いとスウェーデン、あと裸体

          や~きゅ~う~を、す~るなら~ 隣のテーブルから賑やかな声が聞こえてくる。野球拳だ。 この出だしで野球拳以外ならば、私はこのグラスに入ったレッド・アイをイッキ飲みしようと思う。 こ~ゆ~ぐ~あいに~ 私は勝利を確信した。野球拳だな。そういえば私は野球をしたことがない。私の両親はどっちとも公務員で、私の幼少期はピアノだとか習字だとかの、お堅い習い事に時間を費やしていた。 近所に住んでた綾香ちゃん元気かな。綾香ちゃんは活発な少女で、野球にサッカーにセパタクロー。何でもこな

          二日酔いとスウェーデン、あと裸体