maissei522

エッセイを書いてます。 基本的に思い出の乱文です。

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最近の記事

海、下から見るか上から見るか

「海、下から見るか上から見るか」 メキシコでスキューバダイビングのライセンスを取ったときのこと。 ライセンス取得には、 テキストと実技の両方をクリアしなければならない。 まずはテキストを読み、 夜には宿で小さなライトの下、黙々と復習する。 これはまだいい。けれど、問題は実技だった。 プールでの練習が始まる。 どうも私には潜る才能がないみたい。 水中の見えない世界が、ただただ怖かったのだ。 酸素ボンベがなくなったときの練習、 ゴーグルが外れたときの対応… これらはす

    • パラグアイで肺炎と診断された話。

      南米の空気と喧騒に心を踊らせながら旅を続けていたけれど、 ある日、それが一転する。 ブラジルの安宿のエアコンに 喉をやられたのがきっかけだったかもしれない。 そのまま、20時間かかると言われたアルゼンチンのプエルトイグアス行きのバスに乗る。 途中で何度も降ろされたせいで、予定よりかなり遅くプエルトイグアスに到着した。 そのころには、もう立っているのも辛くなっていた。 プエルトイグアスはイグアスの滝の観光拠点の小さな町。 世界中から人が集まる町だが、大きな病院が見当たら

      • 空に帰った赤ちゃんの話。

        少し重い話になるけど。 これは私の受け止め方。 あの出来事をここに残しておきたい。 言葉にするのもつらいことや、 乱暴な言葉を使ってしまいそうなことは、 控えめに記すことにする。 夫と結婚して4年が経った。 私は子どもが好きだったし、 夫と新しい家族を迎えられたらもっと幸せになれると思っていた。 でも、夫は「君さえいれば十分だよ」と言う。 いつも平行線のままの話し合い。 それでも諦めきれず、ふたりで妊活を始めることにした。 6月末のある夜、 じめじめした空気の中で夢を

        • ホッピー通りで見つけられちゃった話。

          人生って、本当に何が起こるかわからない。 どこで、誰に出会い、 どんな出来事が自分の人生を大きく変えるかなんて、 誰にも予想できない。 あの日は、5月の暑い日。 浅草では三社祭が開催されていて、 ホッピー通りは普段よりも一層賑やかだった。 私は友達と昼飲みを楽しんでいたが、 トイレの近くの席に座っていた二人組の男の子のうちの一人と目が合った。 その男の子がトイレの列で後ろに並んでいて、声をかけられた。 「飲んでるんですか?」 当たり前だ。ここはホッピー通り。東京のの

          イスラエルの催涙弾の話。

          22歳の夏。 私はレバノンとヨルダンを旅していた。 ヨルダンの宿で、 「イスラエルに行ったことは?」 と聞かれたのがきっかけで、 ふと興味が芽生えた。 イエス・キリストが十字架を背負って歩いた地、一度は自分の目で見てみたい。 どうせ近くだし。行ってみようみたいなノリである。 そこで初めて、人々が争いの渦中に生きる姿を目の当たりにするとは。 日本人の私は平和ボケしている。 その前に、少しイスラエル入国から街の話をしておきたい。 イスラエルの入国は、他の国とは少し違った

          イスラエルの催涙弾の話。

          パワハラ上司と会社に行けなくなった日の話。

          できれば二度と思い出したくない経験だ。 最初に入った会社で出会った上司は、いわゆるパワハラの権化だった。 「ハラスメント」なんて横文字で表現しちゃって、 あれはそんな軽い言葉で表現できるほど生易しいものじゃない。 正直に言えば、人を殺す行為だ。 追い詰め、痛めつけ、どこまでも孤立させる。 それは人間の尊厳を踏みにじる暴力だ。 その上司は私の人格だけでなく、 家族や友人まで否定し続けた。 業務とは無関係に何時間も拘束され、 ひたすら罵倒される日々。 なぜ私が標的

          パワハラ上司と会社に行けなくなった日の話。

          曼荼羅を描いてた話

          好きな国、と言われると選べない。 でも、合計一番長く滞在してる国、といえばすぐ思い浮かぶ。 南アジアに位置するネパール。 旅人は口を揃えて言う。 ネパールは天国だと。 きっと私もその一人で、2019年には三度目の訪問を果たしていた。 カトマンズの雑踏の中、ほこりっぽい街並みやお香の香り、 商店の親しげなウインクがいつも迎えてくれる。 いつものように散歩していると、 宿の近くに絵画を売っているお店を見つけた。 お店の中で一人の女の子が「曼荼羅」を描いているのを見て、

          曼荼羅を描いてた話

          特別支援学校で天使に出会った話。

          The soul that gives is the soul that smile. (与える魂こそ笑う魂。) という、インドの諺がある。 他者に与えることが、自分自身の幸福につながる、 天使のように魂の純粋さや善良さが笑顔になって現れるという意味だ。 天使は笑顔に宿っている、と私は解釈している。 特別支援学校を見学に訪れた日のことだ。 廊下を歩いていると、 ある教室の後ろ扉に小さな窓があって、 そこからふと視線を感じた。 目が合ったのは、 にっこりと笑う一人の女

          特別支援学校で天使に出会った話。

          ずっと考えている話。

          まだ考えている話。 「ねえ、はるちゃんね、おうちがふたつあるの。」 それは、わずか4歳の男の子が 私に向かって放った言葉だった。 私はその瞬間、一瞬戸惑った。おうちがふたつ? 文脈によっては、別荘があるのだろうか? それとも引っ越ししたのかな? と、さまざまな可能性があると思う。 でも、すぐに気がついた。 はるちゃんは児童養護施設で暮らしている子だ。 夏休みになると、ママとパパのいる「おうち」に帰省する。 だから、彼にとっては「ふたつのおうち」が存在していたのだ

          ずっと考えている話。

          グアテマラで全部手放した話。

          グアテマラで全部手放した話 海外を旅して1年が経とうとしていたころ、 どこへ行きたいわけでもなく、 ただ漠然と時間を過ごしていた。 日本に帰って働くことを考えると、 時間は限られている。 どこか次の場所に、 次の目的に行かないといけない気がしていた。 でも、実際にはただ日本に帰りたくないだけで、 何か特別な目的があるわけでもなかった。 旅に少し飽きてきていたのだ。 そんなとき、次の街に向かうために乗ったのは、噂のチキンバス。 強盗や窃盗のトラブルが多いと聞いていた

          グアテマラで全部手放した話。

          自分の部屋でタイムスリップした話

          人は懐かしさを感じる生き物だという。 それは他の動物にはない、人間特有の感情らしい。 「懐かしさ」を引き起こすトリガーは、過去の繰り返しの経験と、対象物と触れない期間の長さだそうだ。 だからこそ、長い時間を経て再び触れたものには、特別な感情が宿る。 私は、今の夫と同棲を始めるタイミングで実家を出た。 それまでの人生を過ごした自分の部屋を離れるのは、ある種の大きな転機だった。 それから5年が経ち、今では結婚生活にも慣れたものの、実家の部屋は「自分の部屋」ではなく、実

          自分の部屋でタイムスリップした話

          希望の形を見た話。

          ガウディのサクラダファミリアに訪れたのはもう9年前のこと。 当時、私は23歳。 大学を卒業し、社会に出る前に与えられた1年間の猶予期間を過ごしていた。 何か具体的にしたいことがあったわけではなく、ただ「海外に出る」という行動そのものが、就職という選択肢を避けた自分を、ちょっとした「変わり者」に仕立て上げる満足感を得ていた。 1人で日本を飛び出してから10ヶ月が経つ頃。 旅の新鮮さや友達を作る楽しさはあっても、徐々に疲れが溜まっていた。 社会に属している実感がなく、

          希望の形を見た話。

          今思えば分岐点だった話

          人生にはいくつかの分岐点がある。 それは時に曖昧で、自覚せずに通り過ぎてしまうことも多い。 振り返る余裕がないまま、 知らないうちに重要な選択をしていることだってある。 私にとって、そんな分岐点のひとつは、 高校3年生の夏、図書館で”海田さん”に出会ったこと。 彼に出会わなければ、今の仕事に就くことや、 夫と巡り会うことはなかったかもしれない。 あの日、受験勉強のために図書館に通っていた私の隣に、 ひょんなことから海田さんが座った。 ふいに、彼の使っていた暗記リン

          今思えば分岐点だった話

          バングラデシュでチャームポイントを見つけた話。

          約10年前、私は一人でバングラデシュを訪れた。 なぜその国を選んだのか、 今となってはよく覚えていない。 ただ地図を見て、なんとなく決めたような気がする。 でも、それが初めての南アジア旅行であり、 ラマダンの時期だったことだけは鮮明に思い出せる。 湿った空気、耳に響くクラクションの音、 そして通りの喧騒――それがバングラデシュの日常だった。 そこでは、外国人であることが目立ちすぎるほどで、 どこに行っても注目を浴びた。 通りすがりの人々が私に集まり、 話しかけ、写

          バングラデシュでチャームポイントを見つけた話。