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希望の形を見た話。

ガウディのサクラダファミリアに訪れたのはもう9年前のこと。

当時、私は23歳。

大学を卒業し、社会に出る前に与えられた1年間の猶予期間を過ごしていた。

何か具体的にしたいことがあったわけではなく、ただ「海外に出る」という行動そのものが、就職という選択肢を避けた自分を、ちょっとした「変わり者」に仕立て上げる満足感を得ていた。

1人で日本を飛び出してから10ヶ月が経つ頃。

旅の新鮮さや友達を作る楽しさはあっても、徐々に疲れが溜まっていた。

社会に属している実感がなく、どこか空虚な気持ちが漂っていた。

「もう日本に帰ろうかな、それとも南米に行こうかな」

そんな漠然とした考えが頭をよぎる頃、私はアフリカから北上し、スペインのバルセロナにたどり着いた。


「バルセロナといえばガウディ、サグラダファミリアか…」あまり建築に興味がない私だったが、「せっかくだし」と軽い気持ちで入場することにした。

サグラダファミリアは1882年に着工し、今なお未完成のまま。

その圧倒的なスケールと、縦にも横にも広がる迫力ある建築物。

夕暮れ時、ひとりでチケットを購入し中へ入る。

そして、その瞬間、私は涙をこぼした。

こんな安い言葉でしか表現できない自分の語彙力が悲しい。

ステンドグラスを通して差し込む夕日の光が、建物の中の全体に柔らかで温かいオレンジ色を広げていた。

西日がちょうどオレンジ色のガラスを通り、さらに鮮やかなオレンジに染め上げ、光が壁や床に反射している。

まるでその場全体が生きているかのような、音楽のような絵画のような光景を作り出していた。

今までに見たことのない美しさに、心が震えた。

人生で初めてだった。

建築物を見て「美しい」と感じたのは。

これまでどこか冷めた視点で旅をしていた私が、目に見える希望を感じた瞬間だった。

世界にはまだ、私が見つけていない美しいものがある。

サグラダファミリアの光に包まれながら、希望とは目に見えるんだと思った。

その日のうちに、私はブラジル行きのチケットを予約した。

まだ見ぬ美しいものを、この世界で探し続けるために。

だから、旅を終えて日本に帰り、仕事や生活に追われるようになっても、あのサグラダファミリアで感じた「美しさ」や「希望」は、私の心の中で小さく動いてる。

毎日の生活の中で、目を奪われるような美しいものに出会うことも少なくなり、感動する体験はますます減っていった。

日々の忙しさに流され、心が動く瞬間を意識する余裕も失っていく。

それでも、あの日、あの建物の光の中で見つけた希望が、ふとした瞬間に私を支えてくれる。

「まだ、この世界には感動が待っている」

そう信じる気持ちが、忙しい日常の中でも私の片隅にひっそりと灯っている。

旅をしていたあの頃のような時間はもうないかもしれない。

それでも、まだ見ぬ美しさや新しい感動に出会える日が来ることを、サグラダファミリアでの体験がそっと教えてくれているような気がする。

目に焼きついた希望の話。

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