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レコードと部屋と彼19 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

料理作ってもらってる間、僕も掃除とか、してた方がいいのかな。 うちに来てご飯作ってよ。 そう言う話になって、日にちを決めて。電話をした時に彼がふとそう言った。 あ、ちゃんとそういうこと気にする人なんだ。 作ってもらいっぱなしは、気になるのかな。 別に好きにしてていいよって言ったら、 「そっか、僕がお金出せばいいか」 うん、まぁ、気の済むようにやってください。 私は料理好きだし、食べてくれる人がいると張り切るから。 夕方くらいから台所に立って、料理を始めた。

    • レコードと部屋と彼18 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

      彼は自転車に乗って駅に迎えに来てくれていた。 家から最寄り駅まで、歩くと20分ほど。行き帰り歩きだと結構な距離になる。 彼は先週、私に寝間着替わりに貸してくれた、可愛い金魚柄のTシャツを着ていた。 「イメチェンするの、好きなんだよね」 細身の体型には、何でも良く似合った。 自転車は木梨サイクルで買ったという、小型のこれまた可愛らしいサイズのもの。 「木梨サイクル、好きなんだよね」 彼のエレキギターにも木梨サイクルのステッカーが貼られていた。 好きなものを語ると

      • レコードと部屋と彼17 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

        前世で何かあったのかもね。 2度目の電話の時。 私の病気の話をして。彼も自分が病気だった話をして。お互い、共感できる状況にいるってことが分かった時に、彼がぽろっと言った言葉。 「前世」なんて、随分ロマンチックなことを言う人だな。 今、関わりのある人たちは、きっと前世で何等かの縁があったはず。 そういう考え、嫌いじゃない。 数多いる人の中で、選ばれたかのように縁を結べる人は、そう多くはない。 何かしら、特別な縁を感じて当たり前。 でも、彼はちょっと不思議な人だっ

        • レコードと部屋と彼16 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          うちに来てご飯作ってよ。 初めて会って、彼の部屋で一夜を過ごした後。 次の約束をしたいって私が言って、次の日、彼がバイトのシフトが出たと連絡をくれた。 ちょうど、初めて会った日から1週間後が次の約束の日。 その日も、彼は夜勤明けで。でも次の日がお休みだから、ゆっくりできるよ、と。 夜勤明けで帰ってきて、仮眠してからだから夕方くらいからかな。 うちに来てご飯作ってよ、と彼は言った。 彼の部屋はとても居心地が良かった。 ものすごく掃除が行き届いているとか、部屋が広

        • レコードと部屋と彼19 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

        • レコードと部屋と彼18 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

        • レコードと部屋と彼17 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

        • レコードと部屋と彼16 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          レコードと部屋と彼15 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          セックスする時って、立場が逆転するよね。 初めて会って彼の家に泊まり、次の日の朝セックスした後。 裸のままソファに座り、手を握り合って行為後の虚脱感を共有し合っていた最中。 彼がぽろっと言った一言。 してる最中は気持ちよくないの? 「最後に出す時だけかな。ご褒美って感じ」 じゃ、間は? 「イカせてあげてるって感じかな」 したいって言うのは、いつも男性の方なのにね。 私は恥ずかし気もなく、自分の胸の傷痕を彼の前に晒している。 何の抵抗もなく。何度も。 そん

          レコードと部屋と彼15 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          レコードと部屋と彼14 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          レコード一枚分、何も言わずに手を握りあったまま、静かに音楽を聴いていた。 「ながら」ではなく、純粋に音楽を聴いているって、どのくらいぶりだろう。 小さなスピーカーは性能が良くて、低音を良く伝えてくれる。 カネコアヤノのセンシティブでアグレッシブな歌声を聴きながら。 時々、彼が思い出したように、そのレコードについての話をしてくれる。 ジャケット写真の猫は、彼女の飼い猫。 前のアルバムで「猫が飼いたい」っていう内容の歌を歌って、次のアルバム出すときには猫を飼っていた。

          レコードと部屋と彼14 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          レコードと部屋と彼13 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          彼の部屋には、こだわりのないものが一切なかった。 一つ一つのものに思い入れがあり、その中に彼のこだわりが見えた。 棚に置かれているフィギュア一つとっても。 壁に貼られているポスター一つとっても。 これから買い揃える予定の漫画一つとっても。 部屋の中央に置いてあるスタイリッシュなソファは、探しに探して気に入ったものを見つけたらしい。 他の家具もそのメーカーで揃えたいと話してくれ、カタログも見せてくれた。 すごい高級品ではないけれど、ファストファッションじゃなくて自

          レコードと部屋と彼13 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          レコードと部屋と彼12 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          彼は住むところにとてもこだわっていた。 住んでいる、と聞いた地名は、閑静な住宅街で、単身者が住むイメージの場所ではない。 「雑多なところに住みたくなかったんだ」 最寄り駅を降りてから、15分ほど。ひたすら駅を背にして閑静な住宅街を歩いていく。 左右には豪邸が立ち並び、こんなところをよく選んだものだと感心した。 彼は、指を組み合わせた恋人繋ぎで私の手を握り、 「たくさん歩かせてごめんね」 と言う。 付いてきてくれたことが嬉しかったのか、電車の中でやたら褒められた

          レコードと部屋と彼12 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          レコードと部屋と彼11 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          店の外に出ると、彼は私の手を握って駅へ向かった。 これと同じような体験を、ちょうど3週間前にしたばかり。 その時も、もしかしたらそういう成り行きになるかもしれないって、会う前からうっすら思ってた。 その人と2人きりで出かけるのは初めてだった。 いつも、みんなの中でわいわい楽しく絡んで、わりと仲の良い方だったと思う。どうこうなりたいと思ってたわけじゃないけど、お互い何となく好意があるような、そういう気はしていた。 乳がんになって。 手術も終わり、薬の治療が始まり、あ

          レコードと部屋と彼11 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          レコードと部屋と彼10 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          に同じ気持ちだったんだ。嬉しいよ。 初めて会ったタイ料理のお店で、彼がふいに片手を私の前に出し。私がそれに自分の手を重ねて。視線を交わしたり外したりしながら、手を握り合うこと10分ほど。 ほんとはもっと短かったかもしれないけど、すごく長い時間に感じた。彼が何を考えているのか。知るのが怖い気もしたし、知らないでこの時間がずっと続けばいいのに、とも思った。それでも、先に進みたかった。彼が何を望んでいるのか。私が何を望んでいるのか。 繋ぎ合った手を眺めながら、私の手の形を探る

          レコードと部屋と彼10 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          レコードと部屋と彼9 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          彼の顔を忘れてしまいそう。 それが一番怖い。 3週間の間にたくさんやり取りをしたし、電話もしたけれど、実際に会った回数は2回だけ。 どちらも彼の部屋に泊まったので一緒にいた時間は長かったけれど。 たった2回。 その間に、いろんな表情を見せる人だった。 その時の気分によって顔が違うように見えたから、どれが本当の彼なのか分からない。 タイ料理のレストランで料理を間に会話をしてた時の表情。 考えていることが一緒だと分かった時、無邪気に喜んだ子どもっぽいあの表情。

          レコードと部屋と彼9 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          レコードと部屋と彼8 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          私たちはたとえ付き合ったとしても、上手くいかなかったと思う。 それは、痛いほど分かっていて。 「もう会わない方がいいと思う」 彼がそう切り出した時の最初の理由は 「あなたを傷つけるから」 正直、ふざけるな、と思った。人のことを理由にするな、と思ってこの時はすごく腹が立った。最後に電話をした日は余りにも腹が立って、その後しばらく眠れなかった。 でも、彼は正しかった。 彼から切り出してもらえなかったら、私はどんどん深みにはまっていって、心も身体も離れられなくなって、

          レコードと部屋と彼8 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          レコードと部屋と彼7 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          私も話したいことがあるんだ。 彼が2度目の電話で自分がフリーターだと打ち明けてくれた時。 これは、タイミングだと思った。 自分の病気のことを話す、いいタイミングだと。 彼と会う話になってから、ずっと考えてた。 いつ、乳がんのことを言おう。 言わなくてもいいのかもしれないけれど。 マッチングアプリの場合、真剣に婚活をしている人もいる。次、付き合う人と結婚したいって思っている人も。 私は、薬を飲んでいる関係で、この先5年間は妊娠することができない。 将来、自分の

          レコードと部屋と彼7 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          レコードと部屋と彼6 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          本当に一番最初に、この人、ちょっといいかもと思ったのは、私が好きだと言ったアーティストのことを調べてくれて、こんな有名な人なのに知らなかったと言った時だった。 ちゃんと、相手のことを知って、理解しようとする人なんだ。 それが好印象だった。 その後、彼が自分の好きなアニメを教えてくれた時、私もそれを探して、たまたまYoutubeで見られたので、それを見て彼に感想を伝えた。 彼の好きなものに私が近づいていったことが、嬉しかったのではないかなぁと、思ってる。その後の反応がと

          レコードと部屋と彼6 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          レコードと部屋と彼5 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          本当は、すぐ近くに支えてもらいたい人がいた。 でも、その人は相手のいる人で。出会った時から同棲している彼女さんがいることを知っていた。 私たちは音楽仲間。 彼はミュージシャンで、私はダンサー。 生業にしているわけではない。音楽に真剣に向き合ってきたけど、今はお互いアマチュアで活動をしている。 乳がんになる前、アマチュアバンドの人間関係で悩んだ時、その人に支えてもらった。 好きになってはいけないと、ずっと思ってきたのに、好きになってしまった。 それでも、私の想いは

          レコードと部屋と彼5 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          レコードと部屋と彼4 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

          私がマッチングアプリを始めたきっかけは、乳がんになったこと。 マッチングアプリを始める4か月前。 下着をつけようとしたとき、右胸にしこりを見つけた。 まさか、悪性ってことはないでしょう。でも、念のために・・・ と思いながら病院に検査に行くと、一発アウト。悪性腫瘍だった。 他の部位への転移はなく、しこりを見つけてから1か月半後に右胸全摘出の手術を行った。 抗がん剤治療をすることなく、今後10年ホルモン療法(ホルモン剤の服薬)ということで術後の治療方針が決まった。

          レコードと部屋と彼4 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-