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レコードと部屋と彼8 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

私たちはたとえ付き合ったとしても、上手くいかなかったと思う。

それは、痛いほど分かっていて。


「もう会わない方がいいと思う」


彼がそう切り出した時の最初の理由は

「あなたを傷つけるから」


正直、ふざけるな、と思った。人のことを理由にするな、と思ってこの時はすごく腹が立った。最後に電話をした日は余りにも腹が立って、その後しばらく眠れなかった。



でも、彼は正しかった。

彼から切り出してもらえなかったら、私はどんどん深みにはまっていって、心も身体も離れられなくなって、深く傷つくことになっていたと思う。


今だから。

上手くいかなかったことを恨むことなく、「ありがとう」と言ってお互い離れることができる。

好きだけれど。



決して上手くいかなかった、彼が言う通り「合わなかった」と分かっていても、好きになってしまったから。



彼のことを考えると、悲しくて切なくて、涙が滲んでくる。

会いたい。

いつでも、今すぐ、会いたい。

声が聴きたい。

あの優しい声音で彼が自分の好きなモノについて嬉々として語るのを、聴きたい。

いろんな表情を見せる彼の顔を、もう一度見たい。

細身なのにキレイにしまった彼の身体に、もう一度触れたい。

その身体で力強く、もう一度抱きしめられたい。

いつもは心の奥底にしまってある本音を、私にだけ話してほしい。

彼の繊細な魂がこの先どこへ行くのか、見届けたい。




そういう願いを全部、心の底に押し込める。

もう二度と、会ってはいけない。

それは、私を幸せにはしないから。

でも、お互いにとって、必要な出会いだった。

ほんの一瞬、袖振り合うような縁だったけれど。

私にとってだけではなく、

彼にとっても私との出会いは必要だったと確信してる。

それがせめてもの、慰め。

だから、二度と会わない。

思い出は美しいままに。


彼への想いを忘れないように、私は認(したた)める。

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