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レコードと部屋と彼10 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-

に同じ気持ちだったんだ。嬉しいよ。



初めて会ったタイ料理のお店で、彼がふいに片手を私の前に出し。私がそれに自分の手を重ねて。視線を交わしたり外したりしながら、手を握り合うこと10分ほど。

ほんとはもっと短かったかもしれないけど、すごく長い時間に感じた。彼が何を考えているのか。知るのが怖い気もしたし、知らないでこの時間がずっと続けばいいのに、とも思った。それでも、先に進みたかった。彼が何を望んでいるのか。私が何を望んでいるのか。


繋ぎ合った手を眺めながら、私の手の形を探るようにする、彼。

私はそういう彼を眺めながら、この後、どうなるんだろう。私はどうしようってドキドキしながら思っていた。

時折目が合うと、相手を探るように見つめ合ったり、ふいに照れ臭くなって笑いながら目線を外したり。

それでも繋いだ手は離さないまま。


ドリンクも飲み終わって、お店の人は早く帰ってほしいって思っているんだろうな。

一番奥の席に二人で座った私たちのところには、誰も来ない。




初めての待ち合わせは、新宿駅で。お互いの家の中間地点だったから。どこのお店にするかは彼がチョイスを出してきて、予約の電話がつながったタイ料理屋に決めた。


会うまでに、毎日メッセージのやり取りをしていたし、2回電話をして、大分相手のことは知っている気になってた。

それでも、初対面。相手からどう思われるだろうかって不安は誰にでもある。



彼は待ち合わせより10分以上前に着いていて「もう着いちゃいました」と連絡が入って、近くで時間をつぶしてた私は急いで待ち合わせ場所に向かった。


お互いマスクをしてるし、どういう顔なのかも分からないまま、挨拶を交わしてお店へ向かう。待ってる間に地図を眺めてたから場所は分かるという彼に付いていく。


白いシャツに黒いパンツ。

シンプルな服装に、女性が付けるみたいな細い針金に小さな石がはめられている華奢なブレスレット。縁が丸くてこだわりがありそうな眼鏡。


そういえば、電話してる時に、本当は髪を伸ばしたいって言ってたな。アーティストみたいだからって。でも職場で髭も剃れって言われたくらいだから、長髪なんて絶対無理だと思うって。


アプリのプロフィール写真では口髭を生やしてたけど、直接会う数日前に店長から髭を剃れと言われて、剃ったらしい。2,3日前にバイトの後にサウナに行って、髭を剃ったと写真を送ってきてくれてた。髭を剃ると若く見えるから、学生みたいだと言われるんですって。確かに、送られてきた写真は年齢よりも若く見えたから、そう伝えたら、「嬉しい」って。



お店に入って自然にマスクを外して、そこで初めて初対面。何だけどそういうことには特に触れずに、何を頼むかメニューと顔を突き合わせる。

改めて、世の中の人はあまりお酒を飲まないのだなぁと実感する。彼はのめないらしい。両親もそんなにお酒強くないし、具合が悪くなっちゃうから。悪いけど、2杯くらいなら飲んでもいいかなぁ。


お店ではどんなことを話しただろう。


彼のブレスレットが気になって、外して見せてもらった。すごく繊細な華奢な作りのもので、男性より女性が付けたほうが似合いそうな。彼の故郷のブランドが作ってるものなんだと説明してくれた。


ゲームの話をしたのは覚えてる。昔のスーファミのゲームが入ったハードを持ってて、その中にFF(ファイナルファンタジー)6が入ってるんだけど、まだ始めたばかりなのに次にどうやって進めていいか分からないんだって。私がRPG、特にFFはやりこんだから得意だよという話をすると、替わりに進めてほしいよと言われた。


何で東京来たの?って私は聞いた。

「ひょんなことでね」

と言って、彼ははぐらかした。

東京に来て2年くらい、って言ってた。その前は大阪で働いてたんだって。

まだ教えてくれないんだなぁと思った。



彼はその日夜勤明けで。昼間寝てから夕方起きて出てきたらしい。ちょっと食べてきたからあんまりお腹は空いてないって料理はそれほど食べなかった。

でも最後に甘いもの食べようかって話になって。

二人で別々のスイーツを頼んで、半分ずつシェアして食べた。

女友達とするようなやり方だったけれど。「共有」できてるってことが何となく嬉しかった。



デザートも食べ終わり、私も彼も飲み物は空。

マッチングアプリの常道から行くと、初回のデートはもう少し会いたいって思うくらいで別れた方がその後上手くいくって。

今日はタイ料理屋さんでご飯を食べるくらいで帰る、くらいがいいよねと思ってた。


でも、心のどこかで期待してた。


もう少し一緒にいたいって言われたら。

何て答えよう。応えようか、焦らした方がいいのか。



そこで彼に無言のまま手を握られ。

長い沈黙の後に彼が照れ臭そうに言ったのは。


「ねぇ。うちに来て、FF6進めてよ」


あぁ、やっぱり、この人誘いたかったんだ。正直、私も誘われたかった。もう結構好きだなって会う前から思ってたし、実際に会ってみて、この人のこと好きになれるって確信してたし。


私は束の間、迷った。


ダメだって言うべきかどうか。


でも、正直に答えてしまった。




私も、正直、抱かれたいって思ってる。でも、今日、してしまったら、それっきりでもう二度と会わないんじゃないかなって。それが嫌で。。。


そう打ち明けたら。


彼も同じことを考えていた、と。


「理性と本能がせめぎ合って、言おうかどうかずっと迷っていたんだ。

でも、おんなじ気持ちでいてくれたんだ。すごく嬉しい」


彼は子どものように無邪気に笑って、もうその気になってる。

私は一度トイレに席を立ち、どうしようか逡巡したけれど。

こういうことも、たまにはあってもいいのかも。

そう思って、彼と店を出た。

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