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「希望の星の後ろ姿」詩


彼は「希望の星」として
歩き続けてきた

定年すると 神保町の 喫茶店で
ウィンナコーヒーを
一緒に飲んで 何時間も 
過ごしたものだった

二人とも 学生時代に
逆戻りしたような
心地よい 時間だった

彼は 大学時代 ラグビーの
クオーターバックスの
花形選手として 活躍
細身の体から 流れ出す瞬発力は
まぶしい 美しさがあった

嘘や 不正を憎み
義や 人情に 熱い心を
堅持した

その心根は 古武士の
風合いを 備えてる

会社では 彼に
叱られることが 
有能な社員の
ステータスになっていた

彼が叱責しない 社員は
価値が 認められない社員
という伝説が 広まった

30代半ばで 役員に
抜擢され 彗星のような
輝きを 放し続けた

家庭や 私事よりも
仕事を 最優先とした

振り 返れば
壮絶な ビジネスライフだった

平日 夕刻に 帰宅するが 
自宅に 呼び出し電話がくれば
取引先の接待に 夜の街へ
出かけていく

彼の使う 接待費は
社内でも 吐出(としゅつ)していた
その指揮する 一部門で
会社の利益の 6割を稼ぎ出す

土日、祭日は ほとんどが
ゴルフ接待等に 時間を奪われた

その 裏返しで 
娘の 学校行事には
生涯 一度も 列席しなかった

アルバムには 海外出張や
ゴルフ、釣りなどの写真が
きれいに 整理されていた。

しかし 「卒業式」「入学式」等の
看板を背景にして 
娘と並んだ 写真は 
一枚もなかった

ブランド品がとても
似合う男だった

レイバンのサングラスを
さらりと かけて
原宿を歩くと 一枚の絵となった

カラオケで 歌うのは
英語、フランス語、スペイン語と
外国語の 歌ばかり

その甘い声と マスクは 
六本木の ホステスたちにも
とても 人気があった

まさに 昭和を 
矢のような 素早さで
駆け抜けて
生きてきた 男だった

定年後も すぐに 多くの会社から
オファーが 来た
でも 競争相手の会社には
決して なびかなかった。

夏の 暑い日に
自宅の ベランダで 倒れた
それからは
二本の杖を 頼りに
ゆるゆると 歩くようになった

痩せた背中の 後ろ姿は
かげろうの中を 歩くようだった

カミソリと いわれてきた
その 頭脳には
霧が かかった

鋭い目は 光をなくし 
遠くの山を 見つめるような
眼差しに 変わった

見舞いにゆくと
しわがれた声で 
訥々(とつとつ)と 話す
うまく言葉が 出てこない

その目は 時々 光を取り戻し
昔の彼が 戻ってくる

今一度 スーツに身を包み
流ちょうな英語で 渡り合い
国際人の姿で ひのき舞台に
戻ってきて ほしいと心から願う

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立山 剣
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