【交換小説】#味付け 1
結局、母さんは幸せな人だったんだわ、と久枝は思った。
夜勤の看護師たちの交代も終わり、明かりの抑えられた待合は、昼間の混雑の想像もつかないほど冷たく静まり返っていた。兄と妹に連絡を済ませた久枝は、硬い椅子に腰かけて、壁に張り出された「入院手続きに必要なもの」という色褪せた紙をぼんやり眺めていた。入所していた施設で体調を崩し、病院に移ってから一週間も経っていなかった。八十八という年齢を考えると何が起こっても不思議はなかったが、長かった介護生活を思うと、この一週間の出来事は何か