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【交換小説】 #待ち時間7

伊藤は先程までの涙や謝罪の言葉もなく、何事もなかったようにカップラーメンの汁を啜っている。

一体なんなんだこいつは?

「冷めてるけど、うめー!」「若い時はさ、余った汁でご飯食べたもんだよなー」

こいつはなにをほざいているのか?

あの時レジで滞りなくカップラーメンを買い、ホテルへ戻り、部屋で食べているならばその感想もいいだろう。しかしいまこの状況でそのカップラーメンの感想は違和感でしかなく、且つまた不気味だ。恐怖の状況を作りだした?張本人はお前だろ伊藤?お前は三分毎に記憶が0になるのか?ジキルとハイド?数分前の地獄のような時間、死を覚悟した時間のあと、バス停で冷めたラーメンの汁を啜るこの男と私はハワイに来たのか?実際はお互いよく知らない仲だと思っていたが、こうまでわからないとはな。ハワイの熱気に身を任せ、殺意を逆転してやろうか?次は俺がお前を殺す番なのか?そういうゲームなのか伊藤?

すると伊藤が提案してきた。

「歩いてホテルまで帰るか」

私は黙ってその提案に従った。

車のトラックに詰められた恐怖とはまた違う、薄ら怖さが去来した。本来であればこの「普通の提案」がより薄気味悪さを倍増させられる。否定も肯定も出来ない。言われるがままに従おう。いつまたハイドが現れるかわからない。不用意に、「誰と結婚するんだ?」など質問することは絶対にやめておこう。狼男に満月を見せるわけにはいかない。。

やり過ごす。先程までが動ならいまは静だ。伊藤が普通に接してくるなら俺も極めて普通に接する。それを勤めきる。無事帰国するまでは。。


あの日以来、白髪が急に増えた。
近々、熱海へ行こうと思います。


#交換小説 #短編小説  


 

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