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没男のショートコント

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没男のショートコント‥ショートショートを格納しています。
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2024年9月の記事一覧

没男のショートコント⑥【幸福なガソダム】

没男のショートコント⑥【幸福なガソダム】

 きょうも機動戦士ガソダムは道端に立ち、どこか寂しげな様子で地区の平和を見守っていました。機動戦士とは言っても、このガソダムはただの鉄でできていて、背丈は田舎のバス停ぐらいしかなく、アフロ・レイも乗っていません。

 だから、ガソダムはずっとこの道端で、田んぼと森を背に仁王立ちしていたのでした。ジモン軍の侵攻に目を光らせながら。

 ガソダムは自分が生まれたときのことを今でも覚えています。

「こ

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没男のショートコント⑤【人間の尊厳】

没男のショートコント⑤【人間の尊厳】

扉を前に苦悶するすべての同志へーーー

 超エリート新入社員のチェリーボーイYは1時間後、これまでの人生で最も重要なランチを控えていた。かねてから好意を寄せていた取引先の同年代の女と、初めてサシで食事をする機会を得たのだ

 しかし、Yはこの日、受難の時を迎えた。

 Yは緊張からか強烈な便意に襲われたのだ。個室は全て埋まっている。開くことのない扉は無慈悲の謂である。人間の尊厳を揺さぶる、冷たい板

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没男のショートコント④【反-新人賞】

没男のショートコント④【反-新人賞】

 小説家になりたければ、新人賞を獲ればいい。中学校あたりで配布している職業紹介の冊子にも、同じことが書いてある。パティシエになるのと変わらない雰囲気で。

 パティシエは悪くない。新人賞という制度が悪い。人生を棒に振る人間もいる。出版社への持ち込みという手もあるが、近頃原稿ではなく爆弾を持っていく輩が出てきたので、狭き門が閉じた。

 ある出版社は年に一度、登竜門となる新人賞を主催していた。書いて

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没男のショートコント③【ザ・ベスト・オブ・イレバ】

没男のショートコント③【ザ・ベスト・オブ・イレバ】

 ある爺さんが、とんでもない入れ歯をつけてたんだ。ほら見ろよ、コレ。ほら、これ。入れ歯だろ? 普通の。でも、とにかくすげぇ入れ歯なんだよ。

 ここに普通の入れ歯がある。俺の親父の入れ歯だ。さっきの入れ歯とは見分けがつかないだろ? いや、親父の方はちっと汚ねぇか。

 ものは試しだ。トンカチを持ってきた。ガンとやれば、親父の歯は粉っごな。すげぇ入れ歯は? ガンガンガンガン‥傷ひとつつかない。

 

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