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森葉芦日(もり・はるひ)
2024年7月22日 16:24
ーーういっす、今日仕事終わり飲みいかん?この間の不倫上司の愚痴きいてほしい、これが笑えるから、おっとっとオチは取っとかないとね僕は来たメッセージに返信をした。ーーごめん、今日さ、遠出しているからまた来週のどこかで空いてる?ぜひともその話は聞いとかないだしね、温めておいてもらえるとありがたいなすぐに返信がきた。昔からリョートのレスポンスは早い。仕事もできるに違いない。ーーあたりま
2024年7月22日 15:26
ふり返れば、立ち込める入道雲と支配的な山々が、夏と共に遠ざかっていくように思えた。何もなければもう少し、いられた場所。居場所のように思えた空間と関係性。そういったものが、糸がほぐれてみるみる形を失っていく服のように思えた。僕らの乗った車が走れば走るほど、糸は伸びて、やがて失われる。いつか、ここで過ごした日々が、霞のように消えていってしまうような気がした。もしあの場にビーチサンダル
2024年7月22日 14:32
家のなかが、大学生の活気で賑わう。昨日まではじいちゃんとアジサイと僕の3人で過ごしていたから、言い方は悪いけれど、急な異物感。異物感はやはり言い方が悪い。けれど、それ以外の表現方法が見当たらない。大学生は各々、大きなリュックサックとボストンバッグやキャリーケースなどを居間に置いて、じいちゃんの説明を受けている。あまり話を聞く気がないのか、じいちゃんが話しているというのに、横の大学生と話
2024年7月22日 14:12
ーーお、泣き止んできたな、ほらもう一本やるからよ、外で煙草でも吸ってきな、男泣きのあとは、そういう儀式が必要なんだよ僕はゲンジさんの言葉に押されて外に出た。相変わらず、人工的に作られた町になりかけてなれなかった人気もないけれどしっかりと整備されたこの場所から見る森は、張りぼてのように見えた。僕はツネさんからもらった煙草に火を点けて、煙をはく。胸の中ヘドロが全て、煙となって出て、細く宙に
2024年7月22日 14:01
ビーチサンダルと電話をしてから1週間、もしかしたら2週間は経過したかもしれない。電話こそしないけれど、毎日何かしらのメッセージが送られてきて、僕は夏のカゲロウのようにじりじりと内臓を焼かれているような気がした。ーー手は繋いだのか。ーー抱き合ったか、そういう意味じゃねえけどよ。ーーキスはしたのか。ーーおっぱい揉んだのかーーまんこ見たか。ーーお前のは触らせたのかーーセックスしたのか
2024年7月22日 13:18
星が見えた。山は夜になるとやはり冷える。両肩がひんやりと熱を失う。僕は肩までお湯に沈めた。砂を蹴るような足音。「よう、湯加減はどうだ」「最高です、ありがとうございます」「違うだろう」「あ」またやってしまった。僕は改めて言いなおす。「最高だよ、久しぶりにお湯につかった気分、それに露天風呂なんてそれこそいつぶりだろう」「そうか、それならよかった、なかなか乙なものだろ
2024年7月22日 11:45
「おいしい!」アジサイが控えめにだけれどもきっぱりと叫んだ。ゲンジさんは炊飯器で炊いてあった米でおにぎりを握ってくれた。具のないシンプルな塩結び。この米は近所のーーとは言っても車で10分以上はかかるところにいるーー米農家から貰ったものだと言っていた。塩結びでも十分なのに、お湯を沸かして即席の味噌汁、それからゲンジさんの畑で取れたキュウリの塩漬け。失礼だが一見質素に見えるそれらが
2024年7月22日 11:36
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。ただ眠りは浅かった。僕の全神経が緊張を知らせる。納屋の扉が開く音がした。細い朝陽が太くなっていく。「誰だ」扉の先で誰かがそういった。目を開くことができず、扉を直視できない。うっすらと目を開けてみても、逆行であることも相まって声の主の姿を捉えることはできなかった。しまった、まだ誰かが使用していた納屋だったと僕は思った。もちろん、その可能
2024年7月22日 09:22
一歩進むだけで、僕は孤独になる。僕の一歩の間に、他の人は5歩も10歩も先を行き、誰も彼もの背中が小さくなって、カゲロウの果てに消えて行ってしまうのを僕は知っている。それなら進まない方が、僕の前に他者は姿を現さない。はじめは精神的な話だったのだけれど、22年の歳月のなかで、未だにこの世界のあらゆることをうまく呑み込めず、折り合いもつけられないのが自分なんだと悟った時には、物理的にも誰かと歩く