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柔らかい家族 1342日
細くなってしまったね
小さくなってしまった
抱き上げれば実感してしまう寂しさ
軽くなったのが分かる
抱きあげると嫌がって体をくねらせて
抵抗するが力もまた昔より弱々しい
昔から可愛いさだけは変わらずにピカイチだった
2011年の3月には僕は君と出会ったんだ
仕事からの帰り道
春先の生温い風が日が暮れるにつれて
肌身にひんやりと冷たかったのを覚えている
高校の前の道に差し掛かった時に
ふと何かが聞こえて漕いでいた自転車を
停めたんだ
小さな鳴き声だった
今にも消えちゃいそうな
細い声が聞こえたから
僕は自転車を降りて
あたりをキョロキョロと見回したんだ
白いものがチラッと見えた気がしたから
足元の側溝の中に覗いたら君がいた
ボサボサの毛並みをした
まだ小さかった頃の君の姿を
僕はまだ覚えているよ
迷子になってしまったのか
はたまたお腹を空かせていたのか
その場から動かずにただコンクリートのU字工の
中でにゃあーにゃあーと鳴くばかりだった
僕はそんな君を抱き上げてとりあえず
家に連れて行く事にしたんだ
側溝の中にいたからにおいが酷かったから
とりあえず洗ってあげて綺麗にして
ご飯をあげて温めてあげる為に
僕の寝巻きを寝床がわりに敷いてあげたら
次の日の朝
君はそこに見事におしっこをしたよね
それが僕と君との初めての思い出になったんだ
小さな身体から絞り上げるように
不安そうに鳴いていた君は
徐々に我が家になれていき
どんどん元気になって
おっきくなっていった
やんちゃさも極まりあちらこちらで
爪研ぎバリバリ
可愛さもまた磨きがかかっていって
悪い事をしても家族は仕方ない無いなあと
ついつい許してしまうほどに
君はたっぷりの愛情を注がれて家族の一員に
なっていったんだ
陽だまりでまるまる
穏やかな寝顔が可愛くて
写真を何枚も撮ってしまった
甘えたくて膝の上によじ登る際に
爪を立てるものだからズボンはすぐにぼろぼろに
なってしまうし
鼻を患っていてひっきりなしに
くしゃみをしていたから
あちらこちらに鼻水が
たらりとひっついていた
何をしても許せてしまう可愛さは君だけの特権だ
冬になればストーブの前で
我が物で陣取る君の姿を
見ては癒されていた
寒くなればのしかかり
熱くなれば離れていく
猫様特有の気まぐれさに
人間たちは振り回されながらも
幸せを感じていたんだ
君もだいぶ歳をとったんだね
人間の年齢にしたら80歳を越して
僕なんかあっと言う間に
追い越されてしまったよ
久しぶりに抱き上げた君は
昔よりも軽くて細くて
なんだか小さくなって
しまったかのようにさえ思えてしまった
目が悪くなりもうあんまり見えないのだと
母親は言っていた
つい先日病院に行って検査をしてもらったら
腎臓が悪いと言う話だった
君はまだまだ生きなきゃだめなんだよ
身体にはくれぐれも気をつけて
可愛がっていただけの僕が
何を偉そうな事を言っているのかと
母は呆れるだろうけど
やっぱり君がいなくなるなんて
考えられないから
これからもまだまだ
僕のズボンをぼろぼろに
してもらわなきゃ困るんだ
長生きしてずっとストーブの
前で丸まっていてもらわなきゃ
いけないんだよ
君が居ない毎日なんて考えられない
君の可愛さにまだまだ
触れたりない僕のわがままを
どうか聞いてほしい
君が鳴いてくれたから
僕は君を見つける事ができたんた
これからもずっとそばにいてね