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蒲郡に日の出を見に行く

初日の出を見に竹島に行ったのは

僕がまだ20歳の頃

友達と31日の夜からカラオケでオールナイトを

キメてから朝方5時に出発

二人とも夜通し好き勝手歌いまくっていたから

喉はガラガラでだからってアドレナリンが

落ち着くわけも無く二人とも初日の出を

見るのを楽しみにしていたから疲れなんて

ミジンも感じさせない顔つきだった

カラオケ店をでると

日付けが変わって一月一日

まだ辺りは暗がりに包まれている朝の5時

冷たい風が熱って顔に気持ちが良かった

町は静かだった

時折通りを走る車の音以外何も聞こえない

僕らは車に乗り込み一路蒲郡市へと向かった

23号線を蒲郡市に向けてアクセルを踏み込み

ひたすら真っ直ぐ走っていく

右手の山間に自動車工場が見えてきたら

一般道に降りてそこから

またしばらく真っ直ぐに走っていくと

やがて遠くの方に競艇場が見えてくる

競艇場が見えてきたら海はもうすぐそこだ

竹島水族館の駐車場には

僕達のような初日の出を

見にきたであろう人の姿が

ちらほらと見受けられた

皆厚手のコートに身を包み

防寒対策はバッチリだ

二、三軒の土産物屋さんが

通りに並んでいたが

そのすべてがシャッターを下ろして

シンと静かだった

僕らの歩く靴音が冷たい元旦の夜には

不釣り合いなほどよく響いていた

竹島橋が見えてきた

打ち寄せる波音が心地よい

昼間とは違って荒々しく

飛沫をあげて唸り声をあげていた

空はどんよりと雲で覆われていたから

今日は初日の出はどうかな?

と友達はいった

微妙な具合だが見られないなんて事は

ないだろうしたぶん大丈夫さと

何の根拠もないくせに

僕は適当にそんな事を言った

僕らは竹島へと続く橋を渡り

鳥居をくぐると山の上にある

八百富神社に続く石段を登っていった

闇は濃くて足元があぶないから

ゆっくりと登っていく

石段は凸凹していて苔むして

時折足が滑ったりしてひんやりとした

石段を登り切ると八百富神社では

甘酒が振る舞われていた

寒くて冷えた身体には

たまらない幸せだ

紙コップに注いでもらい

温もりを手のひらからまずは

摂取してそれから口をつけて

体内に染み渡らせていく

甘くて美味しい

それでいてほんわかと温かい幸せが

若干眠くなっていた頭に

じんわりと広がっていく感覚

しばらくうっとりと浸ってから

僕らは今年一年の安泰を願って

拝んで初詣を済ませた

それから島の裏側へと

小道を歩いていくと

やがて木々の隙間から

波音が聞こえてきた

さば〜んと弾ける力強い波頭に

おぉっ!っと僕らは唸った

薄らいできた朝の陽の下に広がる

雄大な三河湾を目の前にして

それだけでありがたい

気持ちにさせてもらえた

岩場をひっきりなしに

洗っては引いていく白波の群れ

明けゆく空の向こう

黒っぽかった雲の気配が

徐々に灰色がかった色彩へと

変わっていくのを

その場にいた誰もが静かに見つめていた

雲の隙間からは微かに覗く空の青

日の出は朝7時の予定

あと10分ほどで太陽が顔を出す筈

水平線がほのかに朱色に染まり始めてきた

僕と友達は時計を気にしながら

日の出の瞬間を今か今かとと

待ち侘びていた

周りにいた人達もその瞬間を逃さないように

記念すべき日を収めようと

携帯カメラを準備したりと

ワクワクざわざわと落ち着きのない

雰囲気があたりには漂っていた

予定の時間が迫ってくる

空は明かるくなってきた

波頭が岩場にぶつかる音が

絶えず眼下から聞こえてくる

あと2分

あと1分

あと、、、??

、、予定の時間が過ぎた、、?

???

僕と友達は顔を見かわせて

もう一度時計を見た

時刻は七時を超して10分を過ぎていた

あたりはすっかり陽がのぼり

色彩はしっかりくっきり見分けがついており

海は青と言うよりは緑色の蒲郡の海が

広がっていて

見上げればうっすらと敷かれた灰色の雲

曇り空な元旦の日の出を

僕らは竹島で迎えたんだ

僕が二十歳の頃

日の出の瞬間は拝めなかったが

蒲郡に向けて友達と車で走った

朝方の風景は今だに色褪せる事なく

僕の心にワクワクを感じさせてくれている

太陽はやがて空の中腹あたりまで上がって

ようやく顔を出したが

それはもういつもと同じ太陽の面構えで

僕らは眠くなってきた頭を下げて

きた道をノロノロと戻っていった

寄せては引いていく波の音が

僕らの背中を叩いて慰めてくれているようだった

またいつかこの場所に来て

次こそは日の出をこの目でみたい



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