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春の気配がする雨の音

雨音で満たされた部屋の中

微睡みまだきまだ朝まだき

外はまだ暗い

明け方の5時の部屋の中

雨音で目が覚めた

雨粒は壁や天井によって

遮られていても

音だけはどうしようもなく

すり抜けて僕をそっくり

包み込んでいた

眠気も夢見心地も

ひたひたになって

絞れば水滴が

滴るかもしれない心地に

なって僕の意識は徐々に

目を覚ましていった

部屋の中は紛れもなく

雨が降っていた

僕はびしょ濡れで

だからといって

寝る前にわかっていたら

雨ガッパを着込んで

寝ていたら良かっただなんて

思う訳もなく

どうしようもないのだから

仕方のない事

僕はびしょびしょの音に包まれながら

布団の上で横たわり

そんな雨降りの部屋の様子を

見回していた

冬の終わりの雨は

身体を芯から

冷やしていくけれど

季節の変わり目に降る雨には

春の気配も含まれている

秋口に地面に落ちた

植物の種が長い冬を無事に

越して待ち侘びていたのは

今日の様な雨かもしれない

温もりを含んだ雨に

喜ぶのは植物や獣たちだけじゃない

僕もまた嬉しいのだ

寒さに震えなくて済む

雨粒に愛おしさを感じられる

生きていてよかったと

思える雨音の中に

僕は今横たわり

その絶え間ない喜びを

全身で受け止めている

寝る前に雨ガッパなんて

要らないのだ

傘も必要ない

雨音で目を覚ます事ができるだなんて

贅沢を味わえるのは

短い人生において数える程しかないだろう

そのうちの一回を

僕は今心ゆくまで

味わっているのだ

雨足がゆっくり早くなり

静かになり

そうしてまた早くなり

滴るリズムに

鼓膜を震わせながら

僕は再びゆっくり眠りに

落ちていく

濡れていく

雨粒が僕の世界を静かに

濡らしていく

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