夕立ちの喜び
青かった空が灰の雲に覆われた
どこからともなく流れてきた灰の雲が
ゴロゴロと低い唸り声をあげていた
重たいものを転がしたような音が聞こえてきた
雷の音だ
生温い風と埃っぽい匂い
あたりに漂い出した雨の気配
ポツリと一粒
頬にあたり濡れた
そうしてまた一粒
ポツポツリと降り出した
たまには願ってみるものだなとしみじみと思う
傘の柄を握りしめている手に伝わるは
球体状の感触
雨粒の質感
待ちに待った雨の喜びだ
さっきまでのジリジリ感が
嘘だったかのように
いまや涼やかな居心地の良さ
傘を打つ雨粒のリズミカルな
メロディーに合わせて
踏み出す右に左に
ホップステップルンタッタ
たまには願ってみるものだなとしみじみと思う
いくつもの雨粒が傘のヘリから
滴っていくのを見るのが大好きなんだ
濡れたアスファルトのあちこちに
生まれたばかりの水溜り
長靴を履いていたら怖いものはなにもない
バシャバシャと水飛沫を
あげては歩く喜びの行進
熱せられ渇ききっていた体が
雨に冷やされて潤されていく
願ったから叶った夢のような夕立ち
これを喜ばずにいられようか
傘を打つ雨音にそっくり全身すっぽりと
包み込まれて心は贅沢な気持ち
聞き入る柔らかい雨の音色
僕の体が雨粒一粒
余すことなく求めているのがわかる