白い記憶
かつては青い星だったこの星も
今やすっかり色褪せて乾いた砂地色
星の大半を包んで漂う灰色の雲
酸性雨の雨霰はミサイルが穿った
穴だらけの大地に大きな湖を拵えて
綺麗に見えてもそこには
命の輝きが一切見当たらない
近づけば死に
死に至る生き物も
その大半がすでに死に絶え
残った生き物たちは
かつての煌びやかだった形態から
原始的で不定形なものに姿を変え
環境に適応していった
アメーバのように曖昧な形だが
ダンゴムシのように
自らの体を守るように
丸まった生き物たちが
転がるように
けっとばされるように
大地をかけていく
人の姿は乾いた砂地の奥底
埋もれた白い記憶となり
時折吹き荒ぶ風が砂地を
掘り返しては顔を出す
成れの果て
白い器がうつろに見上げる
空にはかつての美しさは見当たらない
荒れ狂う雨風が白い記憶をばらばらに
細かく砕き地平の彼方に
吹き飛ばしていく
生き物たちは
あるがままを受け入れて抗わない
生きる事も死ぬ事も
大いなる意志の下では
もはや考えても仕方のない事
なる様にしかならないのが
理ならば受け入れるしかない
狂ったように吹き荒ぶ風に
身を任せるように
転がっていく生き物たち
灰色の雲が南へ流れていくと
雨風もまた南に流れていく
生き物たちが立ち去った後
白い記憶の破片に酸性の雨滴が
かつては夜空を彩っていた星屑のように
キラキラと輝きを放っていた
今や誰にも見出される事の
なくなった星屑の意味
結べば思い出す点描画
地球の美しさを知ってるのも
そんな美しさを奪ったのも
皮肉な事に人間たち自身
だったと言う事
かつては栄華の絶頂を
極めた人間たち
砂地に埋もれた
白い記憶たちは
かつての青い星の輝きに
今もなお思いを馳せている