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~絆《むすぶ》~ イラスト 穂積小夜さん 小説 奥山結莉乃
「ただいまー!」
「おかえりなさい。今日お父さんの帰りが遅いから……って、いないし」
私はお母さんの言葉を聞き流して部屋へと向かった。机の上にあるそれを出かけるとき用のトートバックに入れて、携帯でダウンロードした無料のトークアプリを立ち上げる。音とのチャット画面を開くと、待ち合わせした時の会話や漫画の新刊情報で盛り上がった時の会話が目に留まった。
「……この時は、ほんとに楽しかったなぁ。……ぷっ
~絆《むすぶ》~ 4 イラスト 穂積小夜さん 小説 鈴木智弥
「ねぇ、ゆいどうしたの?ぼうっとして」
あの喧嘩のことを思い出していた私は、ついぼうっとしてしまい、音の問いかけを数回、無視してしまっていた。
「あ、ううん。なんでも………」
音と二人の帰り道。それは今までと同じ。ただ二人でたわいのない会話で笑って、難しいことなんてなにも考えずに、ただ音といられることが嬉しくって。
でも、どうしても喧嘩してしまったあの時から心にはもやがかかってしまう。口では嬉しい
ノベル作品集 灰色が重なる スーパーゲームクリエイターコース4年 山田 怜
石造りの家、レンガの床、音を立てる車輪。ここは下町、綺麗とは言えない。それでも僕はシャツと茶革の短パン、長い靴下を履き、茶色のサスペンダーを締め、お気に入りの黒革のキャスケットを被る。十五年生きてきたけど、働くのは辛いって事は分かった。地下で採れた鉱石を父さんと一緒に仕分けるけど、それだけで疲れるんだなって。父さんよりも早く仕事を終わらせて、トンカチになる様な固いパンを片手に街を歩く。歩くのは好
もっとみる予想外の配達物 ノベル作品集 シナリオ&コンテンツ企画専攻3年 出町 基
夏のくそ暑い日に家でだらだらしているとピンポンと、インターホンが鳴った。
「はーい」
そう返事をしてドアを開けた。すると、
「宅急便でーす」
宅急便……はて、何か頼んだだろうか、親からの仕送りは今月はもうないし、うーん、とりあえず、受け取れば何か思い出すだろうと思いそのまま荷物を受け取った。
「重っ……」
そんなに大きな荷物でもないはずなのにズシッと重さが腕にのしかかる。なんとかリビン
それでも足掻くマイメモリー ノベル作品集 シナリオ&コンテンツ企画専攻3年藤枝 那緒
高校二年のホームルームの後、私は担任の先生と進路の話し合いを終えて学校を出た。
私は、何を目指していたんだろう? それを考えること数週間、未だに頭にかかったモヤがとれない。周りは既に動き出しているのに、取り残された気分。
でも、決めなきゃいけない時は来る。今がその時なのは、分かってる。同級生の裕子に聞いてみたけど、
「私? 安定してるし公務員かな」
と、既に決めていた。
「亜美は決
輪郭 ノベル作品集 シナリオ&コンテンツ企画専攻2年鈴木智弥
俺は盲目だ。でも、本当に目が見えない人みたいにずっと真っ暗なわけではない。朝に聴こえるさえずりの正体や、煩わしいほどに眩しい正午の日差し、沈みかけた太陽の放つ橙色は、毎日のようにこの目ではっきりと視認できる。視力検査だって人並みでメガネもいらない。
俺は、夜をまったく知らない。昼間よりも暗くって、どうやら星というものが輝いているらしいが、実物を見たことはない。
この目は、日が沈むと視力の全て