ノベル学園祭

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マガジン

  • 学園祭『1枚のストーリー』

    • 15本

    札幌デザイン&テクノロジー専門学校・ノベルコースによる学園祭用マガジンです。6月22日、23日にリレー小説を投稿する予定です。

最近の記事

~絆《むすぶ》~                イラスト 穂積小夜さん 小説 奥山結莉乃

「ただいまー!」 「おかえりなさい。今日お父さんの帰りが遅いから……って、いないし」  私はお母さんの言葉を聞き流して部屋へと向かった。机の上にあるそれを出かけるとき用のトートバックに入れて、携帯でダウンロードした無料のトークアプリを立ち上げる。音とのチャット画面を開くと、待ち合わせした時の会話や漫画の新刊情報で盛り上がった時の会話が目に留まった。 「……この時は、ほんとに楽しかったなぁ。……ぷっ、はは。何このスタンプ……っ」  さらにトーク履歴をさかのぼっていくと、意味の分

    • ~絆《むすぶ》~ 4 イラスト       穂積小夜さん 小説 鈴木智弥

      「ねぇ、ゆいどうしたの?ぼうっとして」 あの喧嘩のことを思い出していた私は、ついぼうっとしてしまい、音の問いかけを数回、無視してしまっていた。 「あ、ううん。なんでも………」 音と二人の帰り道。それは今までと同じ。ただ二人でたわいのない会話で笑って、難しいことなんてなにも考えずに、ただ音といられることが嬉しくって。 でも、どうしても喧嘩してしまったあの時から心にはもやがかかってしまう。口では嬉しいと言うし、実際にこの心も音のことをちゃんと好きだ。そのもやもやの理由が何なのかは

      • ~絆《むすぶ》~ 3          イラスト 穂積小夜さん 小説 山田怜

         「私、怖かったんだ」  まっすぐな言い方をしたくても、出来なかった。傷つけるんじゃなくて謝りたかったけど、なんだか緊張していた。  「うん、分かってるよ」  「いや、違くて」  何が違うんだ、間違ってるのは自分だって分かってる筈なのに。  「私ね、ゆいには何言われる覚悟あるよ」  「うん……」  やっぱり、難しいな。もどかしくて、むつかしい、この感覚。クロノスタシスに飲み込まれた様な具合の悪さ。  「言いたい事は分かったよ。何も言わなくていいからさ」  音はハッとした顔をし

        • ~絆《むすぶ》~ 2         イラスト 穂積 小夜さん 小説 藤枝 那緒

          「……なに?」  私は素っ気ない態度で、音の方を向く。 「あの時は、ほんとごめんっ!」  あれほど自由奔放な音が、こんな真剣に謝るなんて。でも、音が厄介ごとに首を突っ込むのが多いのを反省するまで、私は他人行儀な接し方を続けようと思う。 「赤羽、糸井。授業資料持ってくるの遅くなった」  職員室から先生が授業資料を持って出てきた。先生から渡された授業資料を、それぞれ抱え持つ。 「‘’糸井さん‘’、教室戻るよ」  先生の後ろで、また気まずい雰囲気が流れる。  その後の授業で、私と

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        • 学園祭『1枚のストーリー』
          15本

        記事

          ~絆《むすぶ》~1                       イラスト 穂積 小夜さん 小説 出町基

          主人公 赤羽 結衣(あかばね ゆい) 友達 糸井 音(いとい おと) 「ゆい~」 私を呼ぶ大親友、音の声。そっちに振り向くと猛スピードで音が私のもとに駆け寄ってくる。 「わっ……そんな急がなくても私は逃げないってば」 あわや正面衝突するんじゃないかと思った音は、何とか私の目の前で止まった。 「えへへ~ゆいと帰りたかったんだもん」 そう言いながら私の腕を取って帰路を辿る。 「またゆいと一緒に帰れるなんて思ってなかったよ~」 その音の言葉に、私はあの時のことを思い出し少し苦しくな

          ~絆《むすぶ》~1                       イラスト 穂積 小夜さん 小説 出町基

          ノベル作品集 灰色が重なる                    スーパーゲームクリエイターコース4年 山田 怜

           石造りの家、レンガの床、音を立てる車輪。ここは下町、綺麗とは言えない。それでも僕はシャツと茶革の短パン、長い靴下を履き、茶色のサスペンダーを締め、お気に入りの黒革のキャスケットを被る。十五年生きてきたけど、働くのは辛いって事は分かった。地下で採れた鉱石を父さんと一緒に仕分けるけど、それだけで疲れるんだなって。父さんよりも早く仕事を終わらせて、トンカチになる様な固いパンを片手に街を歩く。歩くのは好きだ。色んな人と挨拶をして、スイセイロボットと遊んで、猫と戯れて。でも毎日が平和

          ノベル作品集 灰色が重なる                    スーパーゲームクリエイターコース4年 山田 怜

          予想外の配達物 ノベル作品集            シナリオ&コンテンツ企画専攻3年 出町 基

          夏のくそ暑い日に家でだらだらしているとピンポンと、インターホンが鳴った。 「はーい」 そう返事をしてドアを開けた。すると、 「宅急便でーす」 宅急便……はて、何か頼んだだろうか、親からの仕送りは今月はもうないし、うーん、とりあえず、受け取れば何か思い出すだろうと思いそのまま荷物を受け取った。 「重っ……」 そんなに大きな荷物でもないはずなのにズシッと重さが腕にのしかかる。なんとかリビングまで運び、送り主の名前と中身を確認する。 「じい……ちゃん?」 送り先は去

          予想外の配達物 ノベル作品集            シナリオ&コンテンツ企画専攻3年 出町 基

          それでも足掻くマイメモリー ノベル作品集     シナリオ&コンテンツ企画専攻3年藤枝 那緒

           高校二年のホームルームの後、私は担任の先生と進路の話し合いを終えて学校を出た。  私は、何を目指していたんだろう? それを考えること数週間、未だに頭にかかったモヤがとれない。周りは既に動き出しているのに、取り残された気分。 でも、決めなきゃいけない時は来る。今がその時なのは、分かってる。同級生の裕子に聞いてみたけど、 「私? 安定してるし公務員かな」  と、既に決めていた。 「亜美は決まったの? 進路」 「あー、何とも言えない……」  聞かれても、曖昧な答えし

          それでも足掻くマイメモリー ノベル作品集     シナリオ&コンテンツ企画専攻3年藤枝 那緒

          愛はお金じゃ買えない。 ノベル作品集        シナリオ&コンテンツ企画専攻3年奥山 結莉乃

          「……っ、何でも金で解決しようとすんなよ……っ!」 「カナくんっ!」  俺には高級すぎる家の白いドアを乱雑に開け、ここは日本か? と疑いたくなるほどの豪邸を飛び出した。  俺は年齢だけ高校生の叶冬(かなと)。そして俺の足元で呑気に食いモンを食ってるのが野良猫のジジ。  なぁんて、宅配業を営む魔女風に言ったって、今の状況はなんにも変わらない。 「はぁ……。どうすっかな。これから」  数週間前、俺は両親に同性愛者だということがバレて家を追い出された。  いくらバイト

          愛はお金じゃ買えない。 ノベル作品集        シナリオ&コンテンツ企画専攻3年奥山 結莉乃

          輪郭    ノベル作品集               シナリオ&コンテンツ企画専攻2年鈴木智弥

           俺は盲目だ。でも、本当に目が見えない人みたいにずっと真っ暗なわけではない。朝に聴こえるさえずりの正体や、煩わしいほどに眩しい正午の日差し、沈みかけた太陽の放つ橙色は、毎日のようにこの目ではっきりと視認できる。視力検査だって人並みでメガネもいらない。 俺は、夜をまったく知らない。昼間よりも暗くって、どうやら星というものが輝いているらしいが、実物を見たことはない。 この目は、日が沈むと視力の全てを失う。そして、次の朝日が昇る頃にははっきりと見えるようになる。  あの時間帯

          輪郭    ノベル作品集               シナリオ&コンテンツ企画専攻2年鈴木智弥

          君と僕と水族館と。5            イラスト 山本沙紀さん 小説 鈴木智弥

           まだカーテンを閉めていないリビングの窓から、家の前の道路を走っていく車の光が差し込んで、私たちを包み込む。こっちは暗い気持ちになっているというのに全く理不尽なものだ。 「ごめんなさい、私が弱かったせいで」 私は、彼の肩を掴む手の力を無意識に強めながらさっき水族館であったことをまた思い出す。彼よりも生きた年数が多いのだから、私が守るべき立場なのに、彼になにかあったら、私が助けてあげられるって思っていたのに。 それは、ただのうぬぼれだった。 「気にしないで、俺がもっと早く来てい

          君と僕と水族館と。5            イラスト 山本沙紀さん 小説 鈴木智弥

          君と僕と水族館と。4        イラスト 山本沙紀さん 小説 藤枝那緒

           夕日の光が差す車内に流れる、ラジオのゆったりとしたテンポが、私の不安を和らげる。彼が心配そうな表情で、助手席の私を覗き込んだ。 「少しは、落ち着いたかな……?」  私はこくりと頷いた。それでも怖かった。急に声をかけられた不安から解放されたけれど、声が出ない。忘れようとしても、休憩スペースでの出来事がフラッシュバックする。 「怖かった……!」  私は、声を何とか絞り出すので精いっぱいだった。その後、家に着くまで彼とは話をしづらい雰囲気が、車の中に満ちていた。  彼が気をつかっ

          君と僕と水族館と。4        イラスト 山本沙紀さん 小説 藤枝那緒

          君と僕と水族館と。3         イラスト 山本沙紀さん 小説 山田怜

           ただただ怖かった。彼氏よりも背の高い男の人に腕を掴まれるなんて、急な出来事だったから。彼に手を掴まれて逃げて少し、やっと喉がきつく震え始めた。寒いはずなのに、缶よりも温かいその手と頭の先から喉までの一直線が酷い風邪の様だった。  「ここまで来れば大丈夫でしょ」  息切れと恐怖であがった呼吸から、視界の端も耳もぼやけている。彼のその言葉も私には遠かった。  「大丈夫?」  何も返事出来なかった。彼も分かってくれたのだろう、興奮交じりの震える手で、更に震える私の頭を両腕でその胸

          君と僕と水族館と。3         イラスト 山本沙紀さん 小説 山田怜

          君と僕と水族館と。2        イラスト 山本沙紀さん 小説 奥山結莉乃             

           やはりイルカショーは水族館の中でも人気のイベントなだけあって、前を歩いている人や後ろから聞こえる話し声はどれも、イルカショーを楽しみにしているものだった。 「イルカショーってなんだかんだ言ってはじめてかも。俺」 「うそ~!」 「修学旅行で一回来たことあるんだけど、人がいっぱいで入れなかったんだよ」 「あー、確かに。じゃあ今日は私とたくさん思い出作ろっ!」  私は彼の手を引いて屋外の入り口に入り、スタッフの人が配っていたビニールのカッパを受け取ると一番前の席に座った。隣に座っ

          君と僕と水族館と。2        イラスト 山本沙紀さん 小説 奥山結莉乃             

          君と僕と水族館と。1          イラスト 山本沙紀さん 小説 出町基

          「こっちこっち!」 静かな水族館の中、キャッキャッと子供たちが騒ぐのと同じくらいのテンションで私は彼の手を引く。今日は、久しぶりのデートでしかも私の好きな水族館に来ることになった。何度も来ているが彼とくるたびにわくわくするし、テンションが上がる。 「分かったから、落ち着けって」 彼にたしなめられると、やっと私は落ち着き、 「えへへ、ごめん、君とくるとなんかテンション上がっちゃって」 てへへと頬をかきながら彼に言うと彼が頭を撫でてくれる。撫でられると顔があつくなるのを感じた。

          君と僕と水族館と。1          イラスト 山本沙紀さん 小説 出町基