君と僕と水族館と。4 イラスト 山本沙紀さん 小説 藤枝那緒
夕日の光が差す車内に流れる、ラジオのゆったりとしたテンポが、私の不安を和らげる。彼が心配そうな表情で、助手席の私を覗き込んだ。
「少しは、落ち着いたかな……?」
私はこくりと頷いた。それでも怖かった。急に声をかけられた不安から解放されたけれど、声が出ない。忘れようとしても、休憩スペースでの出来事がフラッシュバックする。
「怖かった……!」
私は、声を何とか絞り出すので精いっぱいだった。その後、家に着くまで彼とは話をしづらい雰囲気が、車の中に満ちていた。
彼が気をつかってくれたんだろうと思ったら、心がキュッと締め付けられた。
車を停めた彼がエンジンスターターから鍵を抜いた時には、外は暗くなっていた。
「家、入ろっか」
「……うん」
私は、彼に肩を寄せて家に入る。
「せっかくのデート最後まで楽しめなかったけど……無事でよかったよ」
リビングに入った彼が、優しく抱き寄せる。そのぬくもりに、私は声を震わせて涙をこぼした。
最後まで水族館デートを楽しみたかった気持ちが、こみ上げてくる。彼は、
「俺も、もっとデート楽しみたかったな……」
と呟いて私を強く抱き寄せた。