【読書】SFマンガで倫理学/萬屋博喜 その①
こんにちは!エルザスです。
最近は育児や男性育休以外の記事もポチポチ書いています。
普段書いている記事はこんな感じ↓
今回は読書感想文を書いてみたいと思います!
noteをやっているとどうしても読書量が減ってしまっていたので、久々に集中して本を読みました。
そうしたらこれがまぁ素晴らしい本でした。
SFマンガで倫理学 何が善くて何が悪いのか/萬屋博喜
総評
さっと読める文体・文量なのに、それが与えてくれる視座や思索の種の質量はものすごい大きさです。
関連書籍の読書案内も充実しているので、この本を足掛かりに倫理・哲学方面にもSF方面にも羽を広げていけそうです。
(実際、私は関連書籍をブックオフオンラインで15冊くらいポチってしまいました笑)
まさに一冊で何十冊分もの価値のある本と言えましょう。
思うにSFの本質は、「Ultimateな環境を設定し、その中で人間とは何かを問うこと」にあります。倫理的な思索を深めるうえで、こうした特徴を持つSFはとても相性が良いのだということも強く感じた一冊でした。
第1章 生命と操作の倫理
『鋼の錬金術師』で特に有名なエピソード、タッカーのキメラ製造の問題点を、倫理学者メアリ・アン・ウォレンの「道徳的地位の七原則」で読み解くのが秀逸です。
ウォレンの「道徳的地位の七原則」
生命尊重の原則
虐待禁止の原則:感覚能力を持った者に与える苦痛は、最低限のものでなければならない
行為者の権利の原則:理性を持って道徳的に行為できる者は、生命権や自由権などの基本的権利を持つ
人権尊重の原則
生態系への配慮の原則
生物種間の尊重の原則
尊重の推移性の原則
2.と3.に着目してみましょう。
ハガレンという有名な題材を「シンプルな勧善懲悪」として読んで終わるのではなく、ここまで掘り下げて考えを巡らせることができる。
このことに倫理学や哲学の奥深さを実感しました。これこそ思慮深い人間の作品の読み方であり、私もそうできるようになりたいと思いました。
他方、そうした倫理学的・哲学的な論考に耐えうる深さを持ったハガレンという作品から、日本のマンガ文化のレベルの高さを再認識することもできました。
第4章 管理と自由の倫理
『地球へ……』を題材に、人類の統治をAIに委ねることの是非を倫理学的に考えていきます。
AIを助言者として用いているうちに、いつしか人間自身は判断をしなくなり、やがてAIが絶対的な決定者になってしまうーー
『地球へ……』ではそんな危険性が提起されています。
以下は感想と言うにはやや飛躍し過ぎかもしれません。
合理的判断を下すことにかけては、進化し続けるAIのほうが人間より長けている、という時代がそれほど遠くない将来にやってくるでしょう。
そうなったとき、人間が存在意義を持つのは、むしろ非合理性を発揮する時になりはしないでしょうか。
自己の利益にならない非合理的な決断(例えば、自分の命と引き換えに誰かを助ける)は、AIが統治する世界ではまず認められないでしょう。しかし、自己犠牲の精神や利他行動が、人間の持つ徳であることは確かだと思います。
だとすれば、AIが統治する社会では、人間に「一見合理的でない”愚かな判断”をする権利」を積極的に認めていく必要があるのではないでしょうか。
さて、長くなりそうなので続きは次回に回します!
次回のコンテンツはこんな感じです。
第5章 差別と抵抗の倫理 『三文未来の家庭訪問』
第6章 文明と未来の倫理 『攻殻機動隊』
ここで紹介する以外にも、この本では様々な作品が取り上げられ、色々な角度から倫理学的に考察されています。少しでも知っている作品があったら間違いなく読んでみる価値アリです!
ではまた!