くまさん

本を売るの仕事をしています。営業→商品PR→宣伝→二次利用(映画・アニメ)→営業と、コンテンツを売ることに関わってきました。

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この女

森絵都が大阪のドヤ街を書く。この違和感に面白そうなニオイを感じて衝動買いしました。 森絵都といえば『カラフル』や『DIVE!!』シリーズなど映像化された青春小説を思い浮かべる人が多いかもしれない。もともと児童文学でデビューした彼女は絵本の著作も多い。身の回りの人たちと話していると、あまり大人向けの小説のイメージはないようだ。 私自身は、どちらかというと女流作家としての森絵都の作品が好みだ。直木賞を受賞した『風に舞い上がるビニールシート』の他にも、『いつかパラソルの下で』な

    • 猫のお告げは樹の下で

      半径3メートル以内にヒントがある。 映画監督・宮崎駿が自身の企画のタネを問われた際に答えた言葉だ。灯台下暗し。身近な場所にこそヒントがある。そこに気づけば、私たちの日常はまた違った彩りを見せるのかもしれない。 小説『猫のお告げは樹の下で』は、自分自身の中に隠れている未来へのキーワードを1匹の猫が指し示す、ほっこり心温まる作品だ。町で悩み事を抱えたり行き場を見失った人たちが、毎回神社で1匹の猫と出会う。神主に「ミクジ」と呼ばれているその猫は、境内に植えられているタラヨウの葉

      • 日日是好日

        映画館で見ないともったいない。 映画『日日是好日』は、名優・樹木希林が最後に出演したことで話題の作品だ。舞台は1993年。これといってやりたいこともない大学生活を過ごしていた典子は、母親の勧めで同い年のいとこ・美智子と茶道を習いはじめる。近所で茶道教室を営む武田は、穏やかに2人を迎え入れる。初めは嫌々ながら通っていた典子だが、ひとつずつの所作を身につけていくたびにあることに気づく。静かな空間の中だからこそ気がつく時間の流れ。20代から30代、継続して学んだ茶道から、積み重な

        • 君の嘘と、やさしい死神

          「末裔の中で一番落ちぶれたやつを助けてやろう。」 突然現れた死神に術をかけられた主人公。先祖の功徳の恩恵を受け、死神の姿を見ることができるようになる。勧められるままに医者の看板を出して一儲けするお調子者を描いた古典落語『死神』に登場する一節だ。元々はサゲ(オチ)で主人公が命を落とす。ただ、元旦などのめでたい席での演目に向かないことを理由に、ハッピーエンドで終わるものなど数パターンの派生した物語がある。 小説『君の嘘と、やさしい死神』は一見するとキャラ文芸の装いなのに、ヒロ

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        • 伝えること。
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        • 映画のこと
          20本
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          フォールアウト

          シリーズに一区切りついてしまった。 トム・クルーズが撮影中に骨折したことでも話題になった映画『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』。前作で壊滅的な打撃を与えたはずの敵組織「シンジケート」がさらに強敵になって立ちはだかる、という筋書きだ。 今作は、とにかくアクションシーンが多い。冒頭に登場する高度7000フィートからの落下、パリの街で逆走する車の中を駆け抜けるバイクアクション、アスレチックのようなビルの屋上を全力疾走、ヘリコプターに飛び乗ってからの空中戦。もちろん、

          フォールアウト

          万引き家族

          とかく1つの方向に流れやすいこの国の中で、この傾向はテレビの影響が大きいんですけれども、少数派であることを恐れないこと、多様な意見や立場をなるだけ登場させることで、この社会に自由の気風を保つこと、そいうことが含まれています。 ジャーナリストの筑紫哲也さんが、出演していたテレビ番組「NEWS23」で語った一節だ。番組の、ジャーナリズムの役割を説いたこの言葉には、近年より如実になってきたこの国の人たちの特徴が率直に指摘されている。 映画『万引き家族』は、邦画で久しぶりにカンヌ

          万引き家族

          一瞬の雲の切れ間に

          「My heart was broken」 映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のクライマックスで名優ミシェル・ウイリアムズが元夫役を演じるケイシー・アフレックへ投げかける、強烈に印象的な台詞だ。自らの罪の重さに耐えていた心の内側が漏れ出てる姿には、ここまで涙腺が緩んでいたのかと驚かされるほど心が揺さぶられる。 『万引き家族』でカンヌ映画祭の話題をさらった是枝裕和監督のもとで撮られた映画『エンディング・ノート』で一躍脚光を浴びた映画監督・砂田麻美。彼女が紡いだ小説『一瞬

          一瞬の雲の切れ間に

          血の継承

          私は逆らって泳ぐことで、強くなった。 ファッションブランド「CHANEL」の創業者ココ・シャネルの言葉として語り継がれているフレーズだ。周りの声や時代の波に流されず自らの道を信じることによって貫かれることを表した言葉は、現代ファッションの礎を築いたクリエイターとしての力強さに満ちている。 2016年に日本推理作家協会賞を受賞した作家・柚月裕子の長編小説だ。暴対法が成立する以前の昭和の時代。呉原市という広島の架空の都市を舞台に、1つの殺人事件が発端となった暴力団の抗争と、そ

          マンチェスター・バイ・ザ・シー

          つないだ手に込めた思いが届きますように。悲しみの向こう側へ、進め。 お台場が騒動で揺れた2011年の夏に放送されたテレビドラマ『それでも、生きてゆく』。ある殺人事件の被害者家族と加害者家族を描いた名作だ。ラストシーンで妹を殺された被害者の兄・深見洋貴と、殺人を犯した兄を持つ加害者の妹・遠山双葉がこのセリフとともに手紙を送りあう。両方の家族が越えられない過去を抱えながらも互いに生きていかねばならぬ苦しみから、一歩ずつ前へ踏み出そうとする。耐えることのできない苦痛や苦悶を携えて

          マンチェスター・バイ・ザ・シー

          仮面を被った街

          ひとつ大きな嘘をついたら、約30の小さな嘘をつかなきゃ成立しなくなる。 詐欺師たちの化かし合いをコミカルに描いた映画『約三十の嘘』で登場する印象的なセリフである。彼らは会話の中でひとつの嘘がどう作用するかを知っている。だからこそ、話の核心部分以外はすべて本当のことを話すのだ。偽りを真実で塗り固める。人が真実を見失うのは案外簡単なことなのかもしれない。 俳優ジョージ・クルーニーがメガホンを取った映画『サバービコン 仮面を被った街』は、アメリカ社会の偽りを強烈に皮肉ったノワー

          仮面を被った街

          新しい役割

          いつの世も最初に語られる理想はキレイごとに聞こえるものだ。 マンガ家・かわぐちかいじさんが描いた名作『沈黙の艦隊』の主人公である海江田四郎の言葉だ。海江田の動きを抑えようとするアメリカ大統領トニー・ベネットに自らの行動の意図を堂々と伝えるシーンは、その後の物語への期待を大きく膨らませる力があった。原子力潜水艦1隻で全世界を相手にできたのは、彼の言葉の力が波紋となって多くの人に響いたからだろう。 『進む、書籍PR! たくさんの人に読んでほしい本があります』は、書籍のPRを専

          新しい役割

          分断

          「社会」って、何だと思います? 大学の頃、ゼミの担当教授から問われたことがある。当時、社会学部の学生であった僕は、恥ずかしながらちゃんと答えることができなかった。 「社会」とは元々、人々の共同体を指した言葉です。だから、人間が3人以上集まれば、そこは社会になるんですよ。 ほぉ、なるほど。教授の言葉にもっともらしく頷いてみたものの、具体的なイメージはなかなかピンとこなかった。ただ、社会について考えるという視座は、その後の僕の人生に大きく役立つことになる。社会学に出会っ

          拝啓、本が売れません。

          Fluctuat nec mergitur. フランス・パリの街の紋章に刻まれている言葉だ。日本語では「たゆたえども沈まず」と訳される。強い風が吹いても揺れるだけで沈むことはない、という意味だ。もともとパリの船乗りたちが使った言葉だったそうだが、歴史を重ねるなかで戦乱や革命を生き抜いたパリ市民を象徴する言葉へと育っていった。 新進気鋭の作家・額賀澪さんが上梓した『拝啓、本が売れません』は、嵐の中にある出版業界で、作家として本を売るための解を探し求め取材を重ねたノンフィクシ

          拝啓、本が売れません。

          映画と原作は違う

          「ほら、奇跡なんてすぐ起こっちゃう。」 マンガ『四月の君は嘘』のなかで、病に侵されたヒロイン・宮園かをりが主人公・有馬公生へ贈った言葉だ。もう立つことができないほど進行した病状で、公生を奮い立たせるため、自分自身を鼓舞するために放ったセリフである。物語のクライマックスで、もう終わりは予期できてしまうにもかかわらず、キャラクターを崩すことなく彼女にこの言葉を言わせてしまえるところに、新川直司の作家としての底力を感じる。 『四月は君の嘘』はマンガを原作としてアニメ、実写映画が

          映画と原作は違う

          17歳

          勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいある。 直木賞作家・山田詠美が25年前に描いた17歳の少年が、あまり良くない自分の成績を見てこぼした言葉だ。ちょっと論点がずれている気もするが、これはこれで正論である。この少年・秀美くんは、同級生に比べてちょっと大人びた一面を持つ。斜に構えていながら言いたいことをはっきりと言ってしまえる姿は、同世代でこの本を初めて読んだときになんだかカッコよく見えたものだ。 17歳、大人への入り口が見え出してきた頃。詩人・最果タヒが書いた小説『星か獣に

          15時17分、パリ行き

          Based on a true story. 事実をもとに作られた映画作品の冒頭でよく目にする言葉だ。今から観るものはフィクションとわかっていながらも、この一文を見ると背筋をピンと張ってしまうところがゲンキンな性分である。 事実に基づく物語を、どう表現するのか。限りなくエンターテイメントへ寄せるものもあれば、忠実に事実を辿ろうとするものもある。ただ、商業映画で事実を再現するにも限度がある。再現ビデオのような筋立てを見せられてもつまらない。映画『15時17分、パリ行き』は現

          15時17分、パリ行き