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血の継承

私は逆らって泳ぐことで、強くなった。

ファッションブランド「CHANEL」の創業者ココ・シャネルの言葉として語り継がれているフレーズだ。周りの声や時代の波に流されず自らの道を信じることによって貫かれることを表した言葉は、現代ファッションの礎を築いたクリエイターとしての力強さに満ちている。

2016年に日本推理作家協会賞を受賞した作家・柚月裕子の長編小説だ。暴対法が成立する以前の昭和の時代。呉原市という広島の架空の都市を舞台に、1つの殺人事件が発端となった暴力団の抗争と、それを取り締まる警察官の闘いが描かれる。癖の強いキャラクターがゴロゴロ登場し、彼らの人間関係がグリグリと絡み合う、読み応え十分の骨太な警察小説になっている。

今年公開された本作の映画では、役所広司が主役・大上章吾を演じた。男くさくて昔気質。違法捜査もお構いなしで危険ギリギリを常に走り続ける姿は、小説の大上がそのまま飛び出てきたと思えるほどイメージ通りのキャラクターだ。不運にもこの大上の相棒として配属される新米刑事は、松坂桃李演じる日岡秀一。強い正義感で融通の利かない性格は、無茶な捜査ばかりを続ける大上と毎回衝突を繰り返す。

ちょっとネタバレになってしまうのが申し訳ないが、物語の終盤で大上の本当の姿を知った日岡は、大上の「志」を受け継ごうと動き出す。これまで大上の相棒として実地で学んだ丁々発止を、自分の糧として使うことを決心するのだ。クライマックスで描かれる「孤狼」の継承に、まさに「血」だなと手に汗握れる痛快なストーリー構成になっている。

反社会的勢力となる極道との闘争を描いたバイオレンスな作品。任侠映画で一時代を築いた東映が実写化した本作は、規制の厳しい近年の映画製作現場であって、一歩も引かず(引いたカットがあるかもしれないが)クリエイティブを貫いた姿勢を感じることができる。また、そのクリエイティブに賛同した製作委員会(その参画企業)の、東映の歴史と今への理解も伝わってきた。企画の本数が絞られているなかで、アウトローを生きる人間の生臭い欲望を多面的に見せた作品を選んだ東映の、新時代に向けた脱皮に対する渇望を垣間見ることができる。そろそろ公開も終盤戦、この手のジャンルが苦手でなければぜひ劇場でご覧いただきたい1作だ。

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