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わがままペットな彼女

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スペース・改行含めて300文字。一話につき一分で読めます。 ヘッダー画像はセトちゃんに描いてもらいました。
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2015年6月の記事一覧

33.ギャップ

 ドクロがきらきらと光る黒いニット帽に、胸元が大きく開いたVネックの黒いTシャツ。色の薄いダメージジーンズの裾に被る、脛を覆う黒いブーツはベルトが特徴的だ。
 左腕には黒と銀のいくつものブレスレットがじゃらじゃらと音を立て、人差し指のドクロが睨みを利かせている。右腕と首元で輝くチェーンにもそれぞれドクロが目立っていた。
 しかし一つだけ違和感が拭えない。それは、その手に握られた水色の携帯を覆う白い

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34.夕飯

「今日、夕飯どこかいこうか?」
 どこにしよう、なんてメールを送る。決断力の無さすぎる彼女は、いつも適当な返事。
「どこでもいいよ。美味しいところ」
 二人の味覚は比較的似ている。違うのは、僕の好きな茄子が彼女は大嫌いで、彼女の好きな胡瓜を僕が大嫌いなことくらい。
「どこにしようか?」
「じゃあ、お好み焼き」
 粉もんが好きすぎて大阪に住んでしまった彼女が宣う。
「良いよ。ほんとはイタリアン行こう

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35.ネットゲーム

 近頃、帰宅してからネットゲームをするのが日課になっている。僕の癒やしと言っても良いだろう。
 何年も前からハマっており、二年程前だろうか。彼女にも勧めて二人で遊んでいる。その為にノートパソコンを新調したほどだ。
 このゲームはファンタジー系RPGで、キャラクターの声を人気声優が担当している。RPGが苦手な彼女がこのゲームをやるようになったのも、声優がきっかけだ。
 夕食の後それぞれログインして一

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36.乙女のための恋愛ゲーム

 近頃彼女は恋愛ゲームアプリにハマっている。ちらりと覗いた画面には、乙女1、乙女2というフォルダと、その中には大量の乙女恋愛ゲームアプリが入っていた。
「たんたんさんが画面の向こうの彼氏と浮気しとる」
 ゲームをしながらにやにやと笑う彼女を横目に呟く僕は、ノートパソコンでオンラインゲーム中。
 僕の好きな、幼女なキャラクターの戦う声がノートパソコンから流れている。
「画面の向こうの彼氏との恋は高校

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37.行きたいところ

「今度の盆休みは奈良に行こうか」
 昼休み、ふと思い立ちメールを送る。返事は一言、即座に返ってきた。
「いいね」
 彼女は旅行が好きなわりに計画を立てるのが苦手なようで、いつも僕が調べることになる。
「どこ行こうか?」
「どこ行く?」
 いつも通りのオウム返し。
「前に行きたいって言ってたお店とか、色々あったでしょ?」
 彼女はテレビを観ては、あそこに行きたい、ここに行きたいと言うのだが、実際行く

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38.毛布

 ベッドの上で寝転がりながらアップデートされたばかりのアプリゲームをしていると、ふいに、隣で寝転がっていた彼女が左半身を僕の背中に乗せてくる。
「暑いんですけど」
 そう思うのならくっつかないでほしい。
 顔を近づけてスマホを覗いていた彼女が、無理やり頬に自分の顔を押し付ける。汗でベタついた髪が僕の濃い髭に絡まった。
「髪が絡まって気持ち悪い」
「同じく」
 伸ばしっぱなしの髪は、汗で彼女の顔にも

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39.意味なし

 世間一般では夏休みが目前に迫ったある日、僕は今期アニメの録画予約作業をしていた。
 一週間前にしか予約できないため、この時期は毎日のチェックが欠かせない。
 片っ端から録画予約し、一番下。ずっと楽しみにしていたアニメのタイトルを見つけると、それを見た彼女が隣で呟く。
「映らんやないかい」
 その局は我が家では高い確率でノイズまみれになるチャンネルだった。迷った揚げ句、仕方なくブースターを買いに行

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40.萌え

「アンドリューが格好良いので読むと良い」
 寝ようとベッドに入ると、彼女が携帯を目の前に翳す。その画面は無料漫画アプリを表示していた。
 はっきり言って、僕は同性に興味はない。格好良いと思うキャラクターこそあれ、それは男の思う同性としての格好良いであって、女性のそれとは違うはずだ。
 けれど彼女はお構い無しに自分の好きなキャラクターを勧めてくる。
「ちなみに、この漫画のキャラクターは実在した殺人犯

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41.度忘れ

 休日の昼過ぎ、出掛けようと二人で駅に向かっていた。信号を待っていると、彼女が僕を振り返る。
「ねえ、歯磨いたっけ?」
 何を言い出すのかと思えば。
「磨くの忘れてるよね?」
 若年性健忘症ではないかと疑うほどに、彼女は度忘れが多い。自分の言った事や少し前の行動すら忘れている事もあるので、同じ話を何度もする事もあった。
「ああ、そうかもね」
「どうしよう。ばっちいね」
 口元を手で押さえる仕草をし

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42.罠

 瞼を上げ、枕元の携帯を手に取る。いつも目覚ましが鳴るよりも少し早い時間だった。
 こういう時は、起こされるよりもずっと気分が良い。
 ふいに、背中から腕が回される。起きているのかと寝返りをうつと、彼女は小さな寝息を立てていた。
 ぎゅっと込められた腕の力はさほどなく、僕の胸に額を付けて満足そうに微笑む。
 胸の奥がちりと痛むのは、頭を押し付けられているからではないのだろう。そのむず痒さを押し込め

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43.ごぶごぶ

「ごぶごぶ」
 ふいに彼女が呟く。
「え? なに?」
 よく聞こえなかったので聞き返すと彼女は笑う。
「ごぶごぶ。ゴブコンか」
「なにそれ」
「このゲームの略」
 指を指した先にはパソコンがある。おそらく、ネトゲ内イベントの話だろう。
「ちょっと合コンぽい」
「ゴブリンの合コンか」
「ゴブリン系女子限定合コン」
 彼女がけらけらと笑うので、思い浮かべてみる。出来れば行きたくはない気がした。
「それ

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44.悪い子

 夜遅く、外食からの帰り。
 手を繋いでふらふらと歩いていると、いつも通る道へ渡る十字路の信号がちょうど赤に変わった。
「違う道から帰ろうよ」
「遠回りだよ?」
「たまにはね」
 笑って僕の手を引く彼女は、どこか楽しげに見える。
 暫く歩き信号と信号の間に来た時、車の通りがぴたりと止んだ。
 ふと見回すと、二つの信号は赤く光っている。
「これは渡るしかないでしょ」
 彼女はにやりと悪戯っぽく笑うと

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45.あざ

 何が気に入らなかったのだろうか。
 ちょっとだけ彼女の腹肉をつまみ、ちょっとだけ引っ張り、ちょっとだけ笑った。ただそれだけ。
「ねえ、痛いんですけど」
「え、どうした。紫になってるけど」
 ええ、そうでしょうね。そうだと思いますよ。
 僕の肩には弓なりに紫色の痣ができている。時折出来るこの痣は、だいたい肩や腕に発生した。
 そこは、少しだけ。ほんの少しだけ太っている僕の、肉のついた柔らかい場所。

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46.可愛いは正義

 仕事から帰ると、粉々になった茶碗がテーブルの上に置かれていた。
 彼女はそもそも、食器の扱い方が荒い。以前にも使い勝手の良い皿や、母から貰った急須など様々な物を割られている。
 その度に気を付けるように言っているのだが、数日経てば忘れてしまうのだ。
 僕が元カノと住んでいた時に使っていた食器ばかりなので、そもそも大事に扱う気が無いのかもしれない。
 彼女を見ると、眉尻が下がり俯いている。先ほど謝

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