42.罠

 瞼を上げ、枕元の携帯を手に取る。いつも目覚ましが鳴るよりも少し早い時間だった。
 こういう時は、起こされるよりもずっと気分が良い。
 ふいに、背中から腕が回される。起きているのかと寝返りをうつと、彼女は小さな寝息を立てていた。
 ぎゅっと込められた腕の力はさほどなく、僕の胸に額を付けて満足そうに微笑む。
 胸の奥がちりと痛むのは、頭を押し付けられているからではないのだろう。そのむず痒さを押し込めるように、彼女を抱き締めた。
 携帯から目覚ましの音が鳴る。手を伸ばして携帯を見ると、いつもの時間になっていた。
 ふと彼女を振り返ると、壁にへばりついて寝ている。
 あれはきっと罠だったに違いない。

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