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わがままペットな彼女

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スペース・改行含めて300文字。一話につき一分で読めます。 ヘッダー画像はセトちゃんに描いてもらいました。
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2015年5月の記事一覧

12.愛の為に

「オズが、君が望むなら全力で逃がしてやる。って!!」
 今日の夕飯を買ってドアを開けると、玄関まで出迎えた彼女がそう口走った。
「普段は飄々としているのに本気を出すと怖いんだぞ!! さらりとウインクしちゃうモテ男だぞ!!」
 以前から散々勧められては断り続けているゲームの話らしい。近頃この話ばかりしているので、そのゲームの事をこっそりと『ニート製造機』と呼んでいる。
「大人の余裕で守ってくれるぜ!

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13.貸して

「新しく買ったケーブルでも充電できないよ」
 最近充電ケーブルの調子が悪い。色々とケーブルを変えて試してみたのだがうまくいかず、先日新しく購入したケーブルも結局駄目だった。
「コンセントのやつが駄目なんじゃないかい?」
 自分のスマホから目を離さずに彼女が呟く。
「熱持ってるしね。これ、夜中に燃えたら怖いからやめておこうか」
「それが良いね。燃えたら困るね」
 困るどころの話ではないのだけど。
 

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14.休日出勤

 珍しく土曜日だというのに仕事に行くことになった。
 いつもなら休日出勤の日は私服で行くのだが、最近怠けている彼女が洗ってくれないために私服がなく、仕方なくワイシャツにスラックス。
 こんな服装をするだけで憂鬱になる僕は、ニート予備軍だろうか。
 いつものように家を出て駅に向かう。朝も早いというのに駅にはいつもと変わらず人が大勢いた。
「人多いな。皆も仕事かな?」
 駅に着いた報告のメールを送る。

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15.電気

「二年後から、電力会社を自由に選べるようになるらしい」
 駅に向かっていると携帯が震えた。
 今日もまたニュース番組を見ているらしい。
「電力会社が選べると何か良いことあるの?」
 とても重要な事だ。
「電気料金安いとこを選んだり、発電方法選んだりできる」
 なるほど、それは良いかもしれない。
 ふと、イタズラ心が芽生える。発電と聞いて思い浮かべたのは古典的なものだった。
「たんたんは、自分で自転

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16.お兄ちゃん

 夜の散歩中、バイクを見つめて呟く。
「小さい頃にオートバイに乗ったっきり、バイクとか乗ったことないなあ」
 彼女が僕を振り返った。ちなみに彼女は僕とほとんど身長は変わらないのだが、いかんせん靴底が少し高いので、どうしても僕の方が見上げる形になる。
「お兄ちゃんにね、乗せてもらったんだよ」
 二人姉妹の彼女には兄はいない。この場合の兄は、彼女の実家でアルバイトをしていた青年の事だ。
「同年代の人た

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17.咳が

 朝の「気をつけていってらっしゃい」以降、珍しくメールが途絶えた。
 大抵テレビやニュースサイトの情報等をその度に送ってくるので、常に携帯は震えているのだが。
 構ってちゃんなのは知っているし、何をしているのかも分かりやすいので構わないが、たまに充電が切れかけている事があるので困ったりもする。
 それと、動画を送ってきては観た?と聞かれても、仕事中や通勤中に動画は観られないので勘弁してほしい。
 

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18.手

 夜中に寒くてふと目が覚めた。ベッドサイドのテーブルに置かれた小さな扇風機がからからと回っている。
 扇風機を止めようとスイッチに右手を伸ばすが、ほんの少し足りずに指先が宙を掻いた。仕方がなく左手を伸ばそうと身をよじると、身体の自由が利かないことに気がつく。
 振り返ると、左手は何故か彼女の頭に乗せられており、その手首を両手でがっしりと固定されていた。
 手を引き抜こうとするがなかなか離してはもら

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19.歯磨き

 彼女がベッドの上で足を投げ出し、歯を磨きながら携帯を弄っている。
 太くむちむちとした太ももを見ていると、つい枕にしたくなってしまった。ころんと膝枕に転がると、ちらりと横目で見るだけですぐに携帯へと視線を戻す。
 僕も携帯を取り出し、頭上のしゃかしゃかと歯を磨く音を聞きながらゲームを始めた。
 ふいに頭の近くにある腹部が痙攣するように前後し、顔にべしゃっと水っぽい何かが掛かる。
 どうやらくしゃ

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20.体調不良

「今日は腹痛と頭痛によりお風呂に入りません」
 毎朝一緒にシャワーを浴びる彼女が今日は体調不良らしい。
 そういえば昨夜も頭痛がすると言ってなかなか寝付けていないようだったし、数日に渡り腹痛も訴えていた。
 常に体調不良気味なので気にも止めていなかったが、何かあったのだろうか?もう夏に入ったというのに、夜には寒気がすると言っていた。
 バスルームを出て着替えをし、ベッドルームを覗く。
 ベッドに横

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21.個展

「東京の友達が個展をやるらしい」
 スマホ片手に彼女が言う。
 東京の友達といえば、女優を目指して上京した子だろう。
「個展楽しそうって返したら、やる気と作品さえあれば簡単にできるよって」
 言いながら眉間にしわを寄せる。何か思うところでもあるのだろうか。
「入場料は無料で、展示だけだから販売とかはしないらしいよ」
 なるほど、そういうことか。
「会場の使用料だってかかるのに。画家とかイラストレー

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22.説明

 彼女がまだ痩せていた頃、他県へ飛行機に乗って旅行に行った時の話。
 観光地のお寺の中でお茶の販売をしていたお姉さんに捕まった彼女が、珍しく真面目な顔をして話を聞いていた。
 そのお茶の原料はとうもろこしのひげで、痩せる効果があるらしい。
 ひとしきり説明を聞いた彼女はくるりと僕の腹部に視線を落とし、さわさわと腹を撫でた。
「やめなさい」
 彼女の手を取ると、歯を見せてにやにやと笑いながら僕を見つ

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23.眠い

 ふと思い立ち、二人で少し離れた所へ買い物に出掛けた。
 初めはご機嫌だった彼女が次第に、足が痛い、疲れたとぐずり出したので、近くのベンチに並んで腰かける。
 ぽつぽつと会話をしながら携帯をいじっていると、会話が途切れていることに気がついた。
 隣の彼女を見ると、見事に寝こけている。
 暫くそのままにしよう。起こしたところで機嫌が悪くなるのは目に見えていた。
「んあ? 寝てた」
 目が覚めたらしい

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24.寝なさい

 夜中、ふと目が覚めて隣を見ると、彼女が携帯で小説を読んでいた。
 どうせ明日もニートなのだが、きちんと昼間に起きていれば家の事くらいはできるはずだ。
 もう寝なさいという意味を込めて抱き締めるが、手を払われたうえに毛布にくるまってしまった。
 そもそも、扇風機をかけるほど暑いのに毛布を出しっぱなしにするのは如何なものだろうか。
 仕方がない。最終手段を取ることにした。
 おもむろに右手を彼女の眼

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25.たんたん

「たんたんはどうしてたんたんなんだい?」
「たんたん狸のたんたんだよ」
「たんたんは狸なのかい?」
「たんたんはたーぬたーんだよ」
 何故かいつもたぬたんと言う時だけ叫ぶ彼女は、今日も両腕を高く上げて大の字でジャンプする。
 とはいえ、小学生の頃にいくつものスポーツをしていたのにも関わらず、運動神経が最悪な彼女のジャンプはさほど高くはないのだけど。
「たんたん、もう一回ジャンプして」
 携帯を構え

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