16.お兄ちゃん

 夜の散歩中、バイクを見つめて呟く。
「小さい頃にオートバイに乗ったっきり、バイクとか乗ったことないなあ」
 彼女が僕を振り返った。ちなみに彼女は僕とほとんど身長は変わらないのだが、いかんせん靴底が少し高いので、どうしても僕の方が見上げる形になる。
「お兄ちゃんにね、乗せてもらったんだよ」
 二人姉妹の彼女には兄はいない。この場合の兄は、彼女の実家でアルバイトをしていた青年の事だ。
「同年代の人たちとはあまり関わらなかったらしいけど、うちとはよく遊んでくれたんだよ」
「僕が親だったら、そんなお兄さん怖くて嫌だよ」
 ふと、ある事に気がつく。
 もしや、彼女のお嬢様気質はそのお兄さんのせいでは。

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