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10.EMDRをやってみたレポ①

今回からは私がEMDRというトラウマを暖和させるセラピーを行なった実体験をお話ししていこうと思います。

EMDRについての説明は前回の記事を参考にして下さい。

9.EMDRセラピーとは?|黒林檎 #note https://note.com/kuroringo/n/n255376d30731


私は海外在住です。

文化や言葉が違う国の人とコミュニケーションを取るのは難しい時が度々あります。
英語だけの問題でなく、文化や生きてきた背景の違いから、文章の意味がわかっても言葉の意味がわからない、わかってくれない…など頻繁にあります。
それを心配して日本人のEMDRのセラピストを探しましたが、残念ながら見つかりませんでした。
最終的には現地の友達が紹介してくれた、経験豊富なセラピストの元へ行くことに。


まず、ソファに座るように言われてお茶を出されました。
セラピストの人は落ちついた四十代半ばくらいの女性です。


セラピスト「今日は来て頂いてありがとうございます。そして、ここにたどり着いた事を祝福します。あなたはサバイブしました。おめでとうございます」

サバイブ(Survive)とは、生き残るという意味。
よくトラウマになる出来事の被害者に対して
サバイバーなどという言葉を使います。

私はすごく驚いたあとに、感動しました。

トラウマを背負いながらも生き残り、そしてこれからもより良い人生を迎えるためにこのセラピーを受けにここにたどり着いた。
これは祝福されることなんだ、自信を持っていいんだ…

セラピスト「なぜ今日この場にくることになったのか、話せる事からでいいので話てみて下さい」

私「2、3年ほど精神疾患に悩まされています。
症状は抑うつや、パニック障害、ヒステリーなどです。怒りやすく、自分の感情をコントロールできなくなります。
日本人のセラピストと電話でトーキングセラピーをしていて、自分はもしかするとPTSDなのではないかとセラピストに話すと、このEMDRを勧められました。」

カウンセラー「PTSDになるきっかけは心当たりありますか?」

私「はい…」

カウンセラー「無理して話さなくてもいいですよ。」

私「大丈夫だと思います…。えっと…いつくかありますが、一つは姉の事です。
姉は思春期のときに重度のうつ病になり、引きこもり、自殺未遂を繰り返しました。
実際に姉が手首を深く切り、倒れているところを私が発見して一命を取りとめた事もあります…」

「あともう一つは………」


…涙が出てきた。

とても恥ずかしい気持ちと、寂しい気持ち…今まで積み重ねてきたものが一気に溢れ出した。


カウンセラー「大丈夫です。無理しないで下さい。それについては次回話しましょう。」

カウンセラー「今、どんな気分ですか?何故泣いていますか?」

私「よくわならないけど…辛いです。苦しいです。悲しいです。」

涙が止まらなかった。
鼓動が早まり、呼吸が激しくなる。
全身に痺れがあり、自分の心が身体から離れたような感覚になった。
そしてコントロールが皆無な状態になった私は泣き叫んだ。

フラッシュバックを起こしていた。

セラピストは両手をクロスさせて胸におき、交互にタッピングするように言った。


早いスピードでタッピングを30秒くらいした後に深い深呼吸をするように言われました。

セラピスト「何か変化はありますか?」

私「まだわかりません」
(私は相変わらず号泣したまま)

それを3セットくらい続けたとき、動悸が治まってきたのがわかった。
そして、4セット、5セット目が終わった時には私の心は身体の中に戻っていた。
涙も止まり、正常に呼吸ができるようになった。

セラピスト「落ちつきましたか?これがEMDRのプロセスの一環です。バタフライハグといいます。もしまたフラッシュバックが起きそうになったら是非試して下さい。」


正気を取り戻した私はまた話始めた。

私「あともう一つ、ストレスの原因になることがありまして…それは夫婦関係の事です。
フラッシュバックを起こす時はほとんどが旦那との喧嘩から始まります。
旦那は神経質で頑固な性格で、自分の思い通りに物事が進まないとすぐに機嫌が悪くなり、私や子供に八つ当たりします。
それがきっかけで私はいつもコントロールを失うくらいまで怒って爆発していまいます。
私が爆発したあとは旦那は私に対して見下したような態度になり、私を罵倒するような言葉や責めるような事をよく言われ、自己嫌悪が激しくなります。
何度か別れようと考えて、家出をしたこともありますが毎回迎えに来て連れ戻され、結局は今も一緒にいます。
旦那はこの夫婦の問題を私のトラウマのせいだと一貫して言いい、それさえ治療すれば良くなると思っているみたいです。
私はトラウマがあるから旦那の事もそういう風に悪く捉えてしまうのか、実際に旦那にも問題があるのかわからなくなっています…」


私は何故いつも私だけがこうしてセラピーを受けなければいけないのか…
何故私だけが悪者のようにされるのか…
旦那は今まで何か改善しようと努力した事はあるのだろうか?
そんな気持ちが巡り、悔しくてまた涙が出てきた。
今度は旦那が私を罵倒する声が頭に響き渡り、パニック状態になった。


セラピストは私にバイブレーションの機会を渡し、ボールの部分を片手に一つずつ持つように言った。



私はそれを握りしめると、バイブレーションが左右規則的に始まった。
しばらく握りしめていて下さいと言われた。

セラピスト「この部屋の中に赤いものはいくつありますか?緑は?青は?」

私は部屋の中を見渡し、答えていった。

そうしてそれをしばらく続けると正気を取り戻した。

セラピスト「落ち着きましたか?このバイブレーションもEMDRのプロセスの一環です。」


そこで予定の一時間が過ぎてしまった。

セラピスト「次の予約の方がいるので本来ならここで終了しなければいけませんが、今のあなたの状態が少し心配です。どんな気分ですか?一人で帰宅することは可能ですか?」

私「今心身ともに非常に疲れ切った状態で、頭の中も混乱していてあまり何も考える事ができません」

セラピスト「今あなたはどこにいるかわかりますか?自分の住所を言う事ができますか?」

私は意識が少し朦朧としていて、夢を見ているような気分だった。
自分の住所を思い出せなかった。
スマホを開けて、確認するという作業をする事も思い付かなかった。

セラピスト「次の予約をキャンセルしますので、あなたが良い状態になってから帰宅して下さい。
その間、ここで休憩しても構いません。寝てもいいです。
話したければ話して下さい。
その後今日の予約はもうないので、帰れるようになるまでここにいて下さい。」


セラピストの言われるがままそこにいた。
その後15分ほど目を閉じて休憩したあと、意識
がクリアになってきたのがわかった。

セラピストは私に話せるか確認したあと、話はじめた
「おそらく、トラウマの影響と夫婦関係の問題とどちらも原因なのではないかと思います。
旦那さんとの喧嘩がいつもフラッシュバックのきっかけとなるということは、それがトリガーになっています。
トラウマを治療する事でトリガーへの対処もできるようになります。
旦那さんの問題は旦那さん本人にしか解決できません。
まずは自分の治療に専念し、トラウマを克服できた時に旦那さんといい関係を持つにせよ、離婚するにせよ、新たなステージへ進むことができるのではないでしょうか」


私「そうですね…まずは自分自分の治療に専念してみます。
この場にこれた事も偶然ではないと思うし、
こうして次の予約の方をキャンセルしてまで私に時間を取って下さったのも、私はとても出会いに恵まれたと思います。ありがとうございます。
先生に任せれば私は変わる事ができるんじゃないかと今、やっと希望が見えた気がします。」


セラピスト「あなたを変える事はあなたにしかできません。
私は少し、やり方とアドバイスをするだけです。
今この部屋に来た事も、私と出会ったのも全てあなたの思考がそうさせてます。
これからの未来を作るのもあなた次第です。
私でもなく、旦那さんでもなくあなたがどうするか、それだけです」


それで初回のEMDRは終了した。


セラピストはその後、当日の料金の請求書を送ってきたが一時間分だけしか請求されていなかった。


私は電話で、延長料金はいくらか確認するとセラピストは必要ないと言った。

「あれは私の判断で、あの場で帰すと危険だと思ったから延長しました。
クライアントの安全を守るのはセラピストの仕事ですと言った。」


私はとても素晴らしい人に出会えたと改めて感動した。
そんな人に出会った自分も誇りに思えた。




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