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パイナップルケーキと隈研吾さんとおもてなし。

写真の建物が好き。
設計を手掛けたのは、隈研吾さん。
毛むくじゃらの熊じゃないほうの隈さん。

隈さんの設計は、
新国立競技場、銀座歌舞伎座、
高輪ゲートウェイ駅といえば
どんな作品かわかってもらえるだろうか。


木組みの建物は
南国鳥の宿り木の森のようで
不思議と惹きつけられ
その森の中へ帰りたくなるような
人間の私でも早く入りたくなる。

柔らかい繭のような佇まいだか、
木組みの組方はなんとも険しい
『地獄組み』という名称だそう。
組み方(人)にしてみれば
難解な嶽のようなのかも知れない。

その地獄組みが見られる場所は、
青山通りを一本入った所にある。
私にとっては秘密にしたい場所。

初めて知ったのは、
夫に帯同して
シンガポールを訪れた時、
お土産に鳳梨酥(パイナップルケーキ)を
買おうと思ったことがきっかけだった。

夫が仕事に行っている間
私はひとり小学生の冒険家のごとく、
地下鉄に乗り、乗り換え、
数駅先のデパートへ向かう。

シンガポールは、ショッピング天国と
言っても過言ではないくらい都心には
たくさんのショップやモールが連なる。

少し道をはずれた郊外には、
プラナカン様式のマカロンカラーの
建物が並ぶ。
実際は大きいはずなのに
どこか小さな箱、いうなれば、
ドールハウスのようで美しい。

その街のどこからともなく
香やスパイスの民族的な香りが漂ってくる。

中東、中華、マレー、イスラムなど多民族街にも沢山の雑貨、食べ物
個性豊かにひしめき合い
不思議と溶け込み干渉せず共存している。

話がそれたが、
お目当てのケーキに戻そう。

ケーキは、評判がよく、
こどもが描いたような
かわいらしい二等身キャラが
じてんしゃに乗り
うれしそうに追いかけるイヌの絵が
生成りの木綿生地袋に描かれている。
私が描く私の絵に似ていて
いぬもいっしょなのも近くに感じる。

袋は布製で小さなパッケージが
ちょうど入る大きさ。
たて長でワインボトルを入れるのに
もってこいなサイズでもある。

ケーキは、ひと口食べた時に
バターの香りとパイナップルの果肉の
甘酸っぱさとごろっちょ感に
顔がほころんだ。

このケーキが好きだって
私の中のわたしがいう。

海外の街をひとり歩けた高揚感も手伝って
いろんな人の顔を思い浮かべながら
めいっぱいお土産に買った。

帰国後、
自分用に買ったケーキも
少しずつ、少しずつと思いながら
結局、すぐに食べきってしまった。

パイナップルケーキに想いを馳せていたら
日本にも支店があるのだという。

居ても立っても居られず、
方向音痴の私は、
友人にランチの約束を取り付けて
道案内をお願いした。

お目当ての店は、
どこにあるのだろう。
友人とふたり、
スマホを見ながら道をキョロキョロ。

低い屋根の民家やアンティークショップが
並びそんな大きな建物があるとは思えない。

やはり、道を間違えたのではと
不安になっていると
巨大な木組の森は突如現れる。

店名は、
Sunny Hills サニーヒルズ 
台湾語で微熱山丘と書く。

店内は、
お菓子屋さんとは思えないほど
シンプルで無駄がなく、
パイナップルと林檎のケーキがある。

私は前より少し多めの箱にした。
大事に食べよう。
布袋もやはりかわいい。
自分で購入したのにプレゼントを
贈られた気持ちになる。

品物を購入すると
二階にある
お席で台湾茶とケーキの
「おもてなし」をしていただける。
その様子が竜宮城みたいなのだ。

扉から外界に出てしまったら、
軽く100年を経たような錯覚にら陥る。
それくらい居心地のよい空間。

お席に通されると
ぬくもりのある木の盆に
ケーキと御茶碗に淹れられた
お茶とおてふきが運ばれる。

おもてなし



その日のお茶は青心烏龍茶というお茶で
茶葉が青みがかった翠色をしていた。
手で包み込んだお茶碗から
ふわりと華やぐ薫りが立ちのぼり
いっぱいに吸い込む。

薄翠で透き通る黄金色のお茶は
昔に台湾の方から頂いた茶葉と似て
懐かしく、素人の私でも
希少茶葉なのがわかる。

長居はできないけれど、
ゆったりとした空間で
光の粒の木漏れ陽の中
静かに頂くお茶とケーキ。

幼子だった感覚が懐古される。

そうだ、そうだった。
祖父母と母や従姉妹たち
みんなで卓を囲み
仏様のお下がりや初物を頂く習慣が
あった。あの時の包まれる時間。

地獄組みを内側から眺めながら。



もし可能なら
化粧室にも入ってほしい。

化粧室は、
美術館の一室のように洗練されている。

洗面台はオブジェのように一枚板に
水が斜めに流れてゆく仕掛けは、
手を洗っているのに
作品に触れているのかのよう。

オーナーの許銘仁さんは半導体製造装置
会社の創業者さん。

その許さんの
弟さんが家業を継いだ。
家業のパイナップル栽培は労苦も多い。
台湾の農家さんも貧困で
苦しい状況の中農作物を育てている。

許さんは状況を新しくしたいという
大切な想いを「台湾流おもてなし」という形でパイナップルケーキのブランドとして
立ち上げたのだそう。

このパイナップルケーキは素材にも
こだわっている。
使う原料の産地、袋やパッケージデザインからもおもてなしが伝わってくる。

その形は、
何もないけれどと言って
大切なお茶やクッキーや
おにぎりを握って出してくれたり、
近所のお姉さんがそこの兄弟の子たちと
分け隔てなく鍋いっぱいに
サッポロ一番を作って
食べさせてくれた記憶に似ている。

パイナップルケーキが好きなだけではなく、
そこから見えてくる
見えない風景が好きなのだ。

一見、何のつながりもないようで
垣間見えるつながりを見つける。

半導体関連企業の世界シェアは、
台湾が66%。
日本経済新聞  https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM257LD0V20C22A4000000/


お菓子と半導体とおもてなしに
いったい何の関係が?
と思われるだろう。

日本は、多くの技術を
手放して海外へ放出してしまった。
ただの円安ではない。
背景がある。

台湾の半導体大手企業が熊本に工場を
建設し、2024年から稼働する。

半導体はスマホにもパソコンにも
冷蔵庫にも自動車にも
今フル稼働しているエアコンにも
入っている。

そして少なからず、
夫の仕事にも大きく関わっていて、
繋がっていると思う。

いつも夫にいう。
「たくさん稼いで、たくさん経済を回そう」って。

そのお金を私がやり繰りして
節約して
好きなパイナップルケーキや花を買う。

いろんなことは繋がっている。

知ろうとしなければ
知ることはできないし、
私は知りたいと思う。

私が食べるもの、食べたいもの
好きな場所、好きな趣きを
自ら選択して生きる。

何も知ろうとしないまま
与えられるだけの人生を
生きたくないと思う。

「おもてなし」には
いつでも誰かを想う沢山の想いが
詰まってる。

おもてなしされた人が、また誰かを
おもてなしして、そのおもてなしされた人が
また別の人をおもてなしして…
私も「これ好きなんだ」の
パイナップルケーキや
コーヒー豆を好きな誰かに届けたい。

だからわたしは、経済を回すのです。
黒いぬ雑貨店店主


いつか台湾に行ってみたいって
漠然とした想いが
今は、
近々いきたいに変わった。

写真でしか見たことがない台湾。

赤土が一面広がる丘で陽に
力強く青緑の葉を伸ばす。
黄金のコントラストで
どこまでも眩しく、美しい風景を見て
高く音のない空に名も知らない小鳥が囀り、

その土地で人々がどのように暮らし
蒸し暑いのか
涼しいのか、
渇いているのかも
想像でしか描けないけれど
いろんなことを思い描く。

だから、
きっと、丘を見たら
泣いてしまいそうな気がする。



私が伺ったのはずいぶん前で
自粛になってデパートの催事コーナーで
購入したりしていましたが、
一時期休止されていた
おもてなしも再開されているみたいです。


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