
『きみの存在を意識する』梨屋アリエ|小説レビュー・感想|学習障害などの困難を描いた一冊
タイトルと表紙の雰囲気で、
はじめは青春恋愛モノかと思った。思いません?
でも違った。
そして、なんだか心がチクチクしたので、紹介します。
1.はじめに (こんなテーマのお話です)
あなたにはあるだろうか。
どんなに努力しても、
なかなか結果が出なかったこと。
それどころか、
人並みにすらできなかったこと。
周りから呆れられて、自分がけずられていったこと。
そして消えたくなったこと。
この本には、悩みや困難を抱えながらも、
自分なりに社会に適応しようとする子たちが登場します。
収録されているお話は以下の5話。
それぞれ、メインで取り上げられているテーマがあったので、そちらも載せてあります。
『おぼろ月、名残月』・・・学習障害 (ディスレクシア)
『自分の正体スペクトル』・・・Xジェンダー
『血のインク』・・・学習障害 (ディスグラフィア)
『出さない手紙』・・・養子縁組
『ゴルディロックスの行方』・・・過食症、化学物質過敏症
2.なんで読もうと思ったの?
今回、青春恋愛モノかと思って手に取ったあと、すぐに違うと気づいたのに、なぜ読もうと思ったのか。それは、自分自身、とても身近なテーマだったから。
少しだけ、わたしの話になりますが……。
数字がよく理解できないのです。
あと耳で聞いた情報を、上手く理解できない。
感覚過敏もあるみたい。
具体的には、こんな感じです。
・簡単な計算でも、指を使って、声を出しながらやった上で間違える
・レジでぴったり払うのが難しく、毎回お札を出すため、お財布には大量の小銭
・話についていけず、ズレた意見を言って議論をとめてしまう
・苦手な音が人よりも多くて、耳を塞ぐことが多い
・眩しい光が苦手で、暗い照明の中、ブルーライトカット強めの眼鏡で過ごす
今30代で、新卒からずっと同じ仕事をしていますが、こんな調子なので仕事もひどい。全然できないヤツ認定されていると思う。
でね、この本の1話目にメインで登場する子のことが、他人事と思えなかった。
特徴は少し違うけれど。
この子の場合は、学習障害 (LD) のうちの、読むことに困難を抱える識字障害 (ディスレクシア) の特徴があって。
努力の問題かもしれないと、自分を疑う気持ちはあった。だからなかなかいいだせなかった。
わたしは努力がたりなかっただけ。努力で変わるようなことではないと自分では感じていたことなのに、認めるわけにはいかない。
そう、わたしも学生時代にずっとおなじ気持ちだった。
努力が足りないだけ。努力したらできる。
そうやって自分に厳しくし続けて、
出来ない自分を認めてあげられなかったのです。
結果、高校3年の春に、わたしは鬱になりました。
多くの同級生よりも、自分の方が努力しているように感じるのに、まったく状況はかわらない。うっすらと、なんだかおかしいな?とか思い始めたりして。
本の中でその子が語っていた、この感覚がすごくしっくりくる。
わたしが急な登り坂をひいこらよじ登っている時に、みんなは景色を楽しみながらすーっと飛行機で飛んでいくみたい。そのくらい違っているように感じる。飛行機に乗っているのなら、一時間や二時間読んでも疲れない。でもよじ登っているわたしは、少しもしないうちに疲れてしまう。
大学に入ってからもやっぱり同じことでつまづいて、
算数障害 (ディスカリキュリア) という言葉を知りました。
でも、算数障害の特徴が自分にぴったり当てはまるのに、認めたくなかった。自分の努力が足りないせいではないのかもって少し救われたくせに、認めたらなにかが変わってしまう気がして。
診断されることが、怖い。
そう思ってごまかし続けて、わたしは気づいたら30代になってしまいました。
3.得意なことを伸ばす大切さ
本の話に戻ります。
別のお話の子だけれど、こんなことを言っていた。
知らないことがありすぎる。自分の得意なことをいかせる道が、探したら実はたくさんあるのかもしれない。そう思ったら、人と比べてできないことばかり強調されて、悔しい思いをして我慢するより、自分ができることを伸ばしてくれて、認めてくれるところに一刻も早く行かなくては。
学生時代に、これに気づけるのはすごいなぁ。
そうなんだよ。
自分の得意に目を向けるのって、とても大切だと思う。
好きだけど、挑戦したいけど苦手なことって、どうしたってあると思うから。挑戦するのは素晴らしいことだけど、結果が出ないこともあるから。
そのときに、支えてくれるのは得意なことだ。
わたしは、なんでもできる人間になりたくて、
常に苦手なことに手を出してきた人生だったから、
得意なことについて、考えたこともなかった。
どんなに努力をしてもできないことはあるって、もっと早くに気づけていたら、また違ったのかもしれないな。
かといって、今のわたしは後悔しているのかと言われたら、そんなことは絶対にないけれど。今の自分だって大好きだ。
ただ、もう少し自分の得意に目を向けてあげても良かったのかもしれないと思う。関わる人たちもね、しんどいのは事実だしね。
本の中でも、こんな話が出てきた。
できない人がいると、周りが困るんだよ。気を遣わなくちゃいけないし、なにかしてあげなくちゃならない。できないなら、黙っておとなしくしていれば、ほかのみんなに迷惑がかからない。
できる人にとっては、できない人と関わること自体が困難になり得るからね。そこんとこが、難しい。
4.わたしたちは野生生物か?
さて、ちょっと長くなりましたが、
わたしが本の中でいちばん印象に残ったのはここかな。
いちばん敏感な人に合わせていたら、よのなか、上手く回らないですからね。困る人がいることを見込んで、効率や便利さや経済活動で優先順位をつけているんですよ。困っている人は、ひたすら困り続けていく。困っていない人は、効率のいい流れの中で立ち止まらざるをえない人を、困った人として迷惑に思い、邪魔にする。(中略)強いものが勝つだけならば野生生物と同じで、教育なんていらないのです。
わたしたちは野生生物ではない。
相手の苦手を迷惑に思って排除するのではなく、
お互いの得意を、尊重できる社会であってほしい。
大勢が当たり前にできることをできない人がいると、どうしてもそこを迷惑に思ってしまうけれど、誰だって万能ではないという気持ちを忘れたくない。
あの子はわたしが簡単にできることをできないかもしれないけど、逆に、わたしには到底できないことができるのかもしれないのだから。
5.おわりに (こんなあなたに読んでほしい)
さて、なんだか語りすぎました。
わたしのこれまでには、それだけ吐き出したいことがたくさんあった。それに気づかせてくれた、カウンセラーみたいな本。
まわりに気づいてもらうのは、わかってもらうのは難しいかもしれない。あなたはとても優しくて、まわりに迷惑をかけまいと、自分を押し殺しながら、毎日を必死に過ごしているかもしれない。
あなただけじゃないんだよって、必要以上に自分をダメだと思わなくていいんだよって、そう言ってくれるような本です。ぜひ。
6.次に読みたいオススメ本
この本が良いなと感じた人に、
オススメしたい本をまとめました。
リンクは感想記事に飛びます。
『実存主義とは何か』サルトル
→ちょっと毛色は違うのですが、自分の存在について考えたくなる一冊。
『正欲』朝井リョウ
最近映画化もされたので有名かな。周りには理解されにくい嗜好に悩む人物の葛藤が描かれている一冊。
『推し燃ゆ』宇佐見りん
今回紹介した本の主人公たちと、困難を抱えて生きるという点でなんだか通ずるものを感じた。
李琴峰さんの『彼岸花が咲く島』は、まだ感想記事を書いていないけど、ジェンダー観などをテーマにしていて興味深かった。
あとはこちらも読んだことがなければ。
困難を抱えつつ、社会で過ごしていく主人公が少し今回のテーマと重なる。
7.ちなみに・・・ (本とはまったく関係ない)
ちなみにこの記事は2年ぶりの投稿です。
何事も無かったかのように再開しました。
びっくりしたのは、書いていないあいだも、
フォローやスキをしてくださる方が結構いたこと。
ありがとうございます。
不定期投稿でも、
自分の心が動いた本を、楽しめた本を記録していきたい。
それが巡り巡って、あなたと、あなたの心にずどんと来る本との出会いのきっかけになったら嬉しいな。
とりあえずは、この2年間に読んだ本を読み返しながら、記録を残していこうかな。よろしくお願いします。
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