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『まだ人を殺していません』小林由香|小説レビュー・感想|愛とは何かを考えさせられる一冊

しばらく本棚に眠ってたんですけど、週末にイッキ読みしました。

巻末みたら2021年発行だったよ。
初版ジャケ買いで3年熟成。美味しくなる頃ね。

タイトルでぎょっとした方も多いかもしれませんが、とても良かった。ひさしぶりに余韻でしばらく動けなかったよ。

このずっしりと締め付けられるような読後感は、『罪の声』に似てる。小栗旬さんと星野源さんで実写化したアレね。

「ここらでちょっと考えさせられるやつ読みたい!」って方におすすめ。

最近ハマったドラマとテーマが似ている?


なんで今になってとつぜん読んだかというと、最近『スカイキャッスル』というドラマにハマったんですよ。見ました?あれめちゃくちゃおもろい。

高級住宅街スカイキャッスルで起こる、
歪んだ人々の悲劇を描いたお話なんですけど。

まぁ、なんていうか「子どもの幸せってなんだろうね」っていう、そういうやつです。伝われ〜ッ!

でね、ドラマの中になんども出てくる「誰が彼女を殺したか?」というテーマを聞いていたら、ふと「この本もテーマが似ているのでは」と思い出して、ひっぱりだしてきたわけです。


“殺人犯の息子”は、危険人物なのか?


ちょっとだけあらすじ。

物語の主人公は、葉月翔子。

ある日テレビを見ていると、
死んだ姉の夫・勝矢が殺人の容疑で捕まったとのニュースが流れます。

しかも、殺した人間をホルマリン漬けにして自宅に置いていたことで、世間では大きな話題になりました。

そこで、翔子は勝矢と暮らしていた小学生の息子・良世(りょうせい)を引き取ることになるのです。

良世は素性を隠して学校に通うんだけど、どうしてもいろいろ出てきてさ、問題が。ある日とつぜん、教室でカッターを出して、殺人願望があるかのような発言をしたり。

翔子もね、良世のいちばんの理解者でありたいと思いながら、少しでも違和感のある行動を見ると、どうしても“殺人犯の息子”というラベルがよぎって不安になってしまうのよ。

他の母親たちは、いつも強く優しくいられるのだろうか。愚かな妄想を膨らませ、迷いや不安に駆られるときはないのだろうか。

『まだ人を殺していません』


ちなみにわたしには子どもはおらんが、こうやってさ、物語やまわりの声を聞いていると、どんどん親になるっていうことはどえらいことやなと思う。

誰かの人生の責任を取るということ、誰かの人格を形成する要因になり得ること、とっても重たくて恐怖だ。


人間は白と黒にわけられない


さいごにいちばん印象に残ったところを載せますね。
気になったら読んでみてください。

おばさんの世界にはオセロと同じで、白か黒しかないんだ。でもね、人間はそんなに単純じゃないよ。そんなの常識。子どもはみんな気づいてるんだけどな

『まだ人を殺していません』218ページ

ここよ、ここ。
ここに全てがつまっていると思う。

子どもが問題行動を起こしたのは、
親が殺人犯だからだとか、そんな単純じゃない。

大人も子どもも人間はみんな、善と悪どちらも持ちあわせていて、その時おかれた状況やなんかで、濃淡がどんどん変わっていくものだと思うのだ。

物語の中でもね、自分の内面にいろんな面を持ちあわせて悩みながらも社会とかかわり合う、そんな登場人物がたくさん出てくる。

なんかね、自分についても考えさせられる物語でした。ぜひ。


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熊野ねこ
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