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プリンセス・クルセイド

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王子の結婚相手を決めるため、少女たちは剣を取る。剣と魔術で闘うファンタジーです。
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2017年4月の記事一覧

プリンセス・クルセイド #2 【太陽のプリンセス】1

 ガーネットには夢があった。

 彼女が生まれたサンドベウスの名物、コロシアム。国の文化財として保護されているその場所は、年に一度の武芸大会で有名だ。大会では王都から集結した腕自慢の騎士たちが剣の技を競い合う。その勇姿に、幼き日の彼女は心を奪われた。いつの日か自分も騎士となり、このコロシアムで闘うのだと自分に誓った。

 夢見る者の成長は早い。彼女は年月とともに剣の腕を上達させ、見事王都に騎士とし

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プリンセス・クルセイド #1 【剣を持つ刻】5

 アンバーが目を開けた時、辺りには殺風景な荒野が広がっていた。見渡す限りの砂と岩が、地平線の彼方まで続いているかのようだ。正確に言えば、その地平線も、所々にある岩場のせいで途切れて見える。岩場の高さはまばらだが、二階建てから四階建ての家屋の高さほどのものが大多数で、あたかも舞台のステージのようにそびえ立っている。その上に広がる空は厚い雲に覆われていて、広大な景色とは裏腹に陰鬱なまでの圧迫感を醸し出

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プリンセス・クルセイド #1 【剣を持つ刻】4

 丘の上に生い茂る草花が風に揺られる。その上を踏みしめるようにして、アンバーとメノウが登っていく。目指すは頂上に立つ一軒の小屋。ふと、アンバーが足を止めて振り返る。眼下に広がる街並みは、不気味に沈黙して見えた。

「……不安か?」

 先行していたメノウが隣に立つ。

「はい……分からないことだらけで……」

 アンバーはメノウに向き直り、伏し目がちに呟いた。

「あの女の人は、何者なんですか?」

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プリンセス・クルセイド #1 【剣を持つ刻】3

 市場には、いつの間にか人だかりができていた。その中心には立札が一つ。ウィガーリーの王室が、民衆に対してお触れを出す時に用いるものだ。お触れには、以下の文言が書かれている。

 この度のヘクター・シュワーヴ王の逝去により、次の者に王位が継承される。

・アキレア・シュワーヴ王子

 正式な王位継承に際しては、王子の婚姻が求められる。このため掟に従い、プリンセス・クルセイドを行うこととする。尚、プリ

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プリンセス・クルセイド #1 【剣を持つ刻】2

 王都エアリッタの中心街は、毎日市場で賑わう。この日は国王の死後初めて大々的な営業が再開されることもあり、特に大勢の人が訪れていた。商人たちが店を構えて周辺地域の農場から集められた新鮮な野菜や果物を並べ、競うようにして自慢の品を買い物客に勧める。買い物客はそんな店主たちとの会話を楽しんだり、商品の品定めをしたり、あるいは辺りを駆けずり回る子供たちをなだめたりする。

 アンバーもそうした買い物客の

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プリンセス・クルセイド #1 【剣を持つ刻】1

 空には星の海が広がっていた。その星々の広がる下に、一つの大きな都市がある。都市の周りは堅牢な城壁で囲まれ、その中心部には堀に囲まれた城がそびえ立つ。城内には、石造りの塔や館が立ち並び、その中でも最も高い塔のバルコニーの中に、人影が一つ。手すりに寄りかかって頬杖をかきながら、星を眺める青年の姿があった。城の灯りはほとんど消されている。青年の姿を照らすのは、一面の星空と月の明かり、そして背後の部屋か

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