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わたしの本棚:現実と漫画がオーバーラップする「かしこくて勇気ある子ども」

先日母がよかったから、読んでみて!と持ってきたのは、赤と黒のコントラストが印象的な表紙のコミックス。

「かしこくて勇気ある子ども」山本美希 リイド社

主人公はまもなく第一子が生まれてくる夫婦。

「ね この子 どんな子になると思う?」
「まぁ 俺の子なら かしこくて勇気にあふれた子どもに・・・」
「定番だったらピアノよね!」
「女の子だからバレエもいいんじゃない?」

妊婦である沙良さんの大きなお腹に毎日数字を描き、生まれてくる日をカウントダウンしながら、目を輝かせて希望に満ちた会話をする夫婦。
けれど出産目前、何気なく見たテレビのニュースに沙良さんの心が揺らぐ。そのニュースは賢くて勇気のある少女が、それ故に標的となっておきた事件で・・・というお話。

妊娠がわかってから、夢と希望がきらきらと溢れ出てくる前半。
ターニングポイントとなるニュースの後、沙良さんが加速度的に不安に苛まれていく後半。

どちらも身に覚えがあるなぁ、と思いながら読んだ。

私の場合はうきうき→不安→不安→うきうき→不安→うきうき、みたいな感じだったけど。なんなら2人の子どもを生んだ今も、現在進行形で未来に対する希望と不安は山あり谷ありの波形をしている。

子どもには幸せになってほしい。可能性は無限大だ。
力強く人生を切り開いて生きていけるようになってほしい。

そう思う一方で、

できるだけ怪我や病気、傷ついたり悲しい思いはしてほしくない。
できるだけひどいことが起きませんように・・・。

と思ってしまう。
傷つかず、悲しいことの全てから守られて人生を切り開いていくなんてできるはずない。
完全に矛盾しているのに、同時にそう思ってしまう。

この作品の中では主人公たちの気持ちが手に投影されている。

ニュースを見た時そっとお腹に置く手、
WEBニュースを見るために震えながらマウスをクリックする手、
ただ希望を信じていただけの時に読んだ本を乱暴に掴む手、
沙良さんの脱げた靴を拾ってそっと履かせる手。

考えるよりも前に動いてしまう手は、目や口ほどに物を言うんだな。

漫画は全編色鉛筆の柔らかいタッチで、前半の幸福感に包まれてちょっと浮き足立っている夫婦のテンションにはぴったりだ。でも画材はそのまま、後半の緊張感も手に取るように伝わる。
どうしてそう感じるのかは、まだちょっとわからない。

そしてこの本を2回目に読み返した時、ちょうど香港で周庭氏が逮捕されるニュースを見て、作品と現実がオーバーラップした。
例えば子どもに「自分が正しいと思ったことを貫きなさい」と教えたとして、それが逮捕されるという結果をもたらす可能性もあるのだ。

160ページちょっとの短い話だが、何度読んでもいろいろな思いが自分の中を行き交う作品だった。

最後に私が好きなシーンを。
不安を同じようには感じてくれない夫に苛立つ妻と、ジェットコースター並みの妻の急降下を必死に引き上げようとする夫が、汗と涙と鼻水にまみれながらぶつかりあう。

よかった、きっとこの家族は大丈夫。
これからこういうことがたくさんあっても、こうやってぶつかり合って一緒に乗り越えていくんだろうなと想像できるシーンだった。

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