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「依存症ビジネス」についての依存症になるほどおもしろい本

名前負け、してません。

今年読んだ本の中で暫定トップ5入りする本に出会いました。その名も

僕らはそれに抵抗できない:「依存症ビジネス」のつくられかた

タイトルに惹かれて手に取る本は数あれど、400ページ超えで一気に読ませるような本はそうそうないのでは。もしかしてこれも「依存症ビジネス」…?軽い冗談はさておき、早速中身について書いていく。

ジョブズは自分の子どもにはApple製品を与えなかった

まずプロローグからしておもしろい。現代人の多くが馴染み深い製品やサービスをあげ、開発者たちや専門家たちのほとんどは、実際には自分や家族はそれを使わないようにしているという話。なぜなら、それらの「依存性」を一番よく知っているから。

今は亡きスティーブ・ジョブズもあんなにApple製品の良さを謳いながら、自分の子どもにはApple製品を与えなかったのだとか。

目次だけでもおもしろい。でも中身はもっとおもしろい。

この本、目次だけでもまあおもしろい。そして中身はもっとおもしろい。下記に載せる目次のあとに、私が特におもしろいと思った箇所を3つピックアップしようと思う。

<目次>
プロローグ 自分の商品でハイになるな
─ ジョブズと“売人”に共通する教え

第1部 新しい依存症「行動嗜癖」とは何か
第1章 物質依存から行動依存へ ─ 新しい依存症の誕生
第2章 僕らはみんな依存症 ─ 何が人を依存させるのか
第3章 愛と依存症の共通点 ─ 「やめたいのにやめられない」の生理

第2部 新しい依存症が人を操る6つのテクニック
第4章 (1)目標 ─ ウェアラブル端末が新しいコカインに
第5章 (2)フィードバック ─ 「いいね!」というスロットマシンを回しつづけてしまう理由
第6章 (3)進歩の実感 ─ スマホゲームが心をわしづかみにするのは“デザイン”のせい
第7章 (4)難易度のエスカレート ─ テトリスが病的なまでに魅力的なのはなぜか
第8章 (5)クリフハンガー ─ ネットフリックスが僕たちに植えつけた恐るべき悪癖
第9章 (6)社会的相互作用 ─ インスタグラムが使う「比較」という魔法

第3部 新しい依存症に立ち向かうための3つの解決策
第10章 (1)予防はできるだけ早期に ─ 1歳から操作できるデバイスから子どもを守る
第11章 (2)行動アーキテクチャで立ち直る ─ 「依存症を克服できないのは意志が弱いから」は間違い
第12章 (3)ゲーミフィケーション ─ 依存症ビジネスの仕掛けを逆手にとって悪い習慣を捨てる

エピローグ まだ見ぬ「未来の依存症」から身を守るために

「好き」
=「ほしい」ではない!?

1つ目に取り上げたいのは、「好き(like)」=「ほしい(Want)」方程式への疑問だ。大抵の場合、何かに依存している人はその依存対象を「ほしい」とは思うが、「すき」かどうかでいうとまったくすきではないのだという。例えば、最新モデルのPCや車があったとしよう。「ほしい」とは多くの人が思うかもしれない。でも、それを本当に「好き」な人はどれくらいいるのだろうか?

【好き」だから「ほしい」と思うことは大いにありうると思う。けれど、その逆の「ほしい」から「好き」も成り立つかというと、決してそうではない。ありませんか?「ほしい」と思って買ったけど、買ってみたら大して「好き」じゃなかったなという買い物…。私はある。スーパーでかなり割引されていた商品。いつもは買わないのに、ついつい買ってしまって結局食べずにダメにしてしまう…そんなことが。

いつのまにか「目標」依存症になっている?

そして2つ目。昨今の世の中には「目標」に満ち溢れている。やれ売上を伸ばすために目標設定しましょう、やれ健康であるために目標を掲げましょう、やれ圧倒的に成長するために目標は高く保ちましょう…。本書は言う。

目標達成があなたを「慢性的な敗北状態」にする

どういうことか。著者は英ガーディアン紙のオリバー・バークマン氏の言葉を引用してこう説明する。

人生を、達成すべき小さなマイルストーンの連続として考えるならば、あなたは「慢性的な敗北状態」でこの世に存在していることになる。ほぼつねに、目指す偉業や成功にまだ達していない自分として生きていることになるからだ。そして目標にたどりついてしまえば、生きる意味をくれるものを失った自分になるだけ。だから新しい目標を作って、また1からそれを追いかける。

目標を掲げすぎると、「他人」というライバルがいなくても、常に一人で「目標」と競争を続けることになる。時折自分が感じる精神的・肉体的疲労感はこれが原因だったのかもしれない。

「する」という選択 vs 「しない」という選択

3つ目。動画配信サービスなどを使っている人なら、次の動画が「自動再生」されるという体験をしたことがあるかもしれない。

2012年8月、Netflixは「自動再生」機能を導入した。それまで、視聴者は何かの動画を観たあと、次の動画を観るには自主的に「観る」という選択が必要だった。けれど、「自動再生」機能が生まれると、次の動画は勝手に始まるようになり、視聴者はそれを止めるには自分で「観ない」という判断をしなければなくなったのだ。

その結果がどうなるかは容易に想像がつくかもしれない。結果は本書で確認してもらうとして、他にも、「臓器移植をします」というチェックボックスへのチェック率と「臓器移植をしません」というチェックボックスとのそれを比較した事例も本書には収められている。

「依存」はやめられる

本書では様々な「依存症」についてスポットを当てるだけでなく、具体的に依存をやめる方法についても詳しく書かれている。私もここのところ自分の生活で実験してみているところだ。最後に、著者アダム・オルターのこの言葉でこのnoteを終えようと思う。

依存性のある体験に対する私たちの態度は、基本的には文化によって形成されているのだから、仕事やゲームやスクリーンから切り離された時間を尊重する文化になれば、私たちも、その先の世代も、きっと行動嗜癖の誘惑に抵抗していくことができるだろう。

***

<参考>

著者プロフール
アダム・オルター(Adam Alter)
ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスのマーケティング学科准教授。専門は行動経済学、マーケティング、判断と意思決定の心理学。『ニューヨークタイムズ』『ニューヨーカー』『WIRED』『ハフポスト』など、多数の出版物やウェブサイトで精力的に寄稿するほか、カンヌ国際広告祭やTEDにも登壇。2013年の著書『Drunk Tank Pink: And Other Unexpected Forces That Shape How We Think, Feel, and Behave』(邦訳『心理学が教える人生のヒント』林田陽子訳、日経BP社、2013年)は、ニューヨークタイムズのベストセラーとなり、マルコム・グラッドウェルやダン・アリエリーから絶賛されている。


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小波 季世|Kise Konami
ありがとうございます。いつかの帰り道に花束かポストカードでも買って帰りたいと思います。

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