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『散文詩』セイタカアワダチソウ

学校からの長い坂を ランドセルが駆けてゆく 終わらなそうな長い坂をとりどりの ランドセルが下ってゆく ランドセルより空に近い アワダチソウが縁取っている そんな坂道 どこまでも アワダチソウが見送っている 昔は嫌われ者だった 黄色い花の群れが見送っている 今日はたくさん笑ったろうか 今日はちょっぴり泣いたろうか 今日は喧嘩をしただろうか 今日は仲直りできただろうか? 色とりどりのランドセルが 転がるように下ってゆく


あんなに高い坂の上に 学校を建てたのは誰だろう 夢はいつか 転がり落ちてゆくものだと 知らなかったのは誰だろう 朝 それでもランドセルたちは 長い坂道を登ってゆく 朝日が手伝ってくれるなら 少しは楽になるだろうに 朝風が 背中を押してくれるなら 少しは楽になるだろうに その代わり おはようや 昨日のゲームや 推しの話が たまには一緒に連れ立ってくれる せめて途中の信号まででも 坂道にも交差点はあったりして


世界のどこより高い場所に あるのだろうか学校は ランドセルが 背中に合わないそのあいだだけ 夏休みが いくつか過ぎるそのあいだだけ 学校は 世界で一番高い場所に あると信じているのだろうか そしていつかアワダチソウに 君たちの背が近くなったら 初めて気づくことになるのだろうか あの地平線の真実ほんとうを 世界の広さとその狭さを そしてそのときにはもう何も 色とりどりのランドセルに 詰め込む必要はないのだと ⎯⎯


坂道の両側で、セイタカアワダチソウは密集しているのです。風が吹くと、隙間なく立ち上がった花房がその風を、前だか後ろだかに送るように順繰りに揺れて、それからまた順繰りに鎮まり返る、特に何もなかったかのように。でもセイタカアワダチソウは人知れず、隠れて繋がっているのです。あたかもそれは、ちょっとした思想がじわじわと、時間をかけて、人々の心にゆっくり広がってゆくかのよう。むろん、見送られる子どもたちだって、そんなことは知りやしません。ただ、季節になると唐突に溢れる花房に、あっと気づいて、足を止めることがあるばかりです。


学校からの長い坂を ランドセルが駆けてゆく 終わらなそうな長い坂をとりどりの ランドセルが下ってゆく ランドセルを見送るように 黄色い花房が揺れている くっきりと 坂道を縁取るように 花の列が揺れている まだしばらくはランドセルより 花房のほうが高いだろう 満点を取れなかったプリントや 隠してしまった小さな嘘や 言えなかった一言でいっぱいの ランドセルの重さに慣れるまで アワダチソウのほうが高いだろう そうして セイタカアワダチソウのため 夕焼け空が遥かに遠い どこまでも



密集するセイタカアワダチソウ/撮影takizawa

タイトル画像は以下を使用/WikimediaImagesによるPixabayからの画像




月曜日は、 #なんの花・詩ですか   の日。

今回はセイタカアワダチソウです。キク科のアキノキリンソウ属の花で帰化植物。繁殖力が旺盛なため、昔はこれのせいで国内の野草が駆逐される恐れがあると、随分忌み嫌われたものでした。その割には十朱幸代さんとか、八神純子さんとかがそのものズバリのタイトルで歌ってたりして。


セイタカアワダチソウは虫媒花、つまり虫によって花粉が媒介されるので、似てはいるけれど風によって媒介される風媒花のブタクサとは別物です。でも、だから花粉症の原因になると、そんなことも嫌われる理由だったようですね。

詩についてですが、今回、わざと第4節に変化をつけてみました。ご存知の通り音楽では移調だの転調だの、曲の途中で変化を付ける方法があり、であれば文章でもそれをやってみたら面白いのでは、と思いつきました。というのも、自分で書いたものの中でこちらなんかはリズムというか流れというか、他とは全く違うので、ひとつの詩、あるいは文章のなかにその違いを入れ込んでみたらどうだろう、そうおもったのがきっかけです。

とは言え、自分で書いたものでありながら意識してそれを使い分けるのはなかなか大変で、変えたつもりが同じ常体のままでは変化に乏しくて、敢えて継体にしてみたことと、そこだけ句読点を打ってみました。成功しているかどうかは自分ではよくわかりません。
そしてそのあと第5節でテーマに戻って終了する。詩としてはともかく、遊びとしては面白いかもしれません。ただ短い文章だと鬱陶しいだけかもしれないので、お試しになるならある程度長い文章がいいかもしれませんね。単に物好きなだけかもしれないですけど(汗)。




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