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『詩』雪の面(も)に本が咲いている

雪のに風に揺れて
本が一冊咲いている
その開いた頁を読むために 空から借りた
膝丈の長いブーツを僕は履く
脛まで届く鋼色の
長いコートの襟を立てて


行手を遮るものは何もない 揺れている
開いた頁そのものが目印だ
日差しがあまりに黄色いので いつかの日
海から貰ったサングラスを
掛けると世界が緑に変わり 慌てふためいて
手にしたストックを僕は取り落とす


風が吹いて 降り積もった
雪が緑に舞い上がる


すべてはどう見るかで変わるのだ 半ば
雪にブーツを取られながら
コートを引きずって僕はゆく
緑の雪原の真ん中に ただ一冊
開いた本の花を読むために
それが希望の言葉ならいい


立ち止まってサングラスを外すと
すべてが檸檬色に塗り変わって
影も形も見えやしない!
僕は急いでサングラスを掛け直す
長いコートの裏のような 紫の
夕暮れがやってきてしまわないうちに


(サングラスを外したら 夕暮れは
もっと明るい紅だのに)


時折僕は振り返る 帰るべき
その場所を確かめるために けれど
緑はいつか常緑樹になって
背後に大きく立ち塞がって
僕は戻る場所を見失う 本だけが
今は僕の希望なのだ


雪原に(それが雪原と言えるならば)
本が一輪開いている 心なしか
少し萎れてきたようにも見える
もっと急いで行かなくては!
夕暮れのように重いコートを
僕は思い切って脱ぎ捨てる


(いったい誰から
コートは借りたものだったろう?)


やっとのことで
僕は開いた本の花に辿り着く グラスを外し
そっと震える手を差し伸べると ⎯⎯
薄い花びらがはらりと落ちて
あとには萎れかけた薔薇が一輪 風に耐えて
そこに立っているばかり




「本が咲く」という表現は、どこかで出会ったことがあるような気がします。はっきりとは覚えていないけれど、たぶん、僕のオリジナルでないことは確かなようです。
でも、雪の原にはらりと開いて咲いている一冊の本、というイメージを、書いてみたいとおもいました。それだけのことですが(汗)。




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