『詩』ブルースギター
ギターを弾いてたんだ ずっと昔から ガキの頃から
親父は怒りっぽくてね
飲んだくれならまだしも話になったろうが
単に気が弱いだけの小心者だった
ギターを弾いてたんだよ 俺じゃない、親父がさ
なに、プロなんかじゃない、知る限りは
俺が物心つく頃には、でも
すっかりやめちまってたんだ だから
親父がギターを弾いてるところを
俺は一度も見たことがない
教えてくれたのは一度だけ あの都会の
小さなライブハウスでセッションした
あんたも知ってるあの爺さんさ たった一度しか
一緒にやったことはなかったけれど
いろんな話を聞かせてくれた この町に
まだ進駐軍が溢れていた そんな昔から
港も飲屋街も元気だった
キラキラ輝いていた時代から そのうちに
徐々に人が減っていって 野良猫が
人の数より多くなって
古い映画のポスターが
風に引きちぎられて飛んでいった そんなふうに
町が寂れて今みたいになった
長い長い話をね
ほんのちょっぴり
親父が話のなかに登場したのさ 俺は最初
それが親父のことだとは気づかなかった
酒場のネオンが煌めいていた そんな時代に
誰より一番元気だった
それが親父だったなんて いったい誰が
信じてなんかくれるもんかね
ギターを弾いてたんだ なに、親父じゃない
俺のことさ、今度は俺の
そこにギターがあったんだ、親父のね
それあもう、別に何て言うことのない、安物の
アコースティックギターさ 弦なんて
ずっと張りっぱなしだったんだろう、ネックがね
ネックがこう、反っちまっててさ けどこんな
廃れちまった町んなかで、俺みたいな
ガキがギターの一本も持ってるなんて それだけで
十分自慢だったんだ
貰ったのかって? そんなわきゃないさ
親父が自分のものをくれるなんて
万に一つもあり得なかった
売れる代物じゃないから 部屋の隅で
ずっと埃をかぶってたのを
俺が勝手に持ち出したんだ
親父は気づいていたはずさ けどそのことで
なぜだか怒られたことはなかったな
ギターを弾いてたんだ、ずっとね
学校は嫌いだったから、一日じゅう
廃れた港でギターを弾いた、ラジオとか
そんなものの真似をして
トランジスタってのは優れものだったね
学校は嫌いだったけど、プロになりたくて
初めて親父と向き合ったよ、真正面からね
どこにそんな金があったかしらないけれど
親父は黙って出してくれた
おふくろ? もちろんいたよ
でもおふくろのことなんて 照れくさいしさ
町を離れて何年か経って 親父が死んだとき
そのときだけ電話をくれた、今は施設に入ってる
これかい? フェンダーのストラト
ブルースなんて似合わないって、若い頃は
ずっとそんなふうに粋がってたけど
この歳になるとさ、沁みるよね、Slow Danceなんてさ
歌? 歌うよ、こんな酒焼けの声がブルースに
似合うってみんな言ってくれる
ライブをやるよ、今夜 この町でさ
今も一軒だけ店を開けてる あの
今にも潰れそうなライブバーで
ところでそこに一度だけ 親父がさ
親父も立ったことがあるって 信じられるかい?
そんな古い店なんだ 俺なんか
まだまだ全然ひよっ子だね それに比べると
人生というものを詩にしてみたいとおもい、加えて何とか今までとは全く違うものが書けないかと考えて、こんなものになりました。もちろん全くの創作です。いかがでしょうか?
今回もお読みいただきありがとうございます。
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