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『詩』ある企み

スポーティなオフィスビルの真下をカーニバルが通る
十四階の サッシの窓を開くと
簾のように<実り>をぶら下げて 前線が
こちらへ向かってくるのが見える 噴水のように
トロンボーンが噴き上がって
はじけた金鎖きんぐさりのようにバラバラと落ちてゆく
そのせいで 赤い水銀柱が一気に下がる
季節の心変わりがこの秋は早い


机の上の<ラブレター>という名の企画書を
飛行機に折って窓から放つ
カーニバルと紙飛行機がすれ違って あのひとが
僕を思い出してくれるはずだ
そしたら偶然のふりをして あのひとに
僕はメールかラインを送ろう <実り>を下げて
前線がすぐそこまで来ているので
今すぐ窓を開くようにと


すぐに前線が来るというのに カーニバルは
数えきれないほどの小鳥を連れてくる
それはきっと小鳥たちが トランペットの
ミュートのように華やかに
囀り 踊り 飛び回るから けれど
十四階のオフィスのなかは 下よりも
一、二度 もっと温度が低い
こんな季節にカーニバルなんて!


それでも僕はもう一度
飛行機を折って空へと放つ 間違えて
小鳥が寄ってくるように あのひとの
ラインに動悸が届くように
そしたら新しい企画書を書いて
ペリエのような飛行船に積んで あのひとの
町の上から降らせよう
あたかも答え合わせのように


そうしてたくさんの小鳥たちを連れて 三番街の
角をカーニバルが曲がってゆく
空に憧れるタワーの上に 前線の
<実り>が簾のように引っ掛かり もうしばらく
ここに来るのが遅れるだろう
僕の企画書を拾い上げて あのひとは
稚拙な企みに微笑みながら クリスマスを
心待ちに待つだろうか?




クリスマスが視野に入る頃になると、人はそれぞれいろんなことを考えるようになるものですね。詩は空想にすぎないけれど、いかがでしょうか、こんな気分。

「ペリエのような飛行船」というのは、画家ヒロ・ヤマガタ氏の絵に登場する<気球船ペリエ号>をイメージしたものです。ちなみに「ペリエ」は南フランスの硬水「ペリエ」から作られた炭酸水で、ヒロ・ヤマガタ氏の絵の<ペリエ号>のロゴはまさしくその「ペリエ」そのものです。

『ヒロ・ヤマガタの世界』講談社より/「気球船ペリエ号のパリ旅行」 takizawa蔵書

上記はヒロ・ヤマガタ氏の初期の画集の中のひとつ。僕は、彼がまだ本名の「山形博導」で描かれていた頃からその絵のことは知っていたのだけれど、次第に笹倉鉄平さんのほうが好きになって、それっきりになってしまいました。今はアメリカ在住ですが、活動状況は不明だそうです。




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