『詩』石垣を造る
まるで職人のように男は石を積み上げる
誰に教わった覚えもなく
なぜそれをしているのかすらわからない
ただ黙々と 何人かの男たちとともに
粛々と 彼らは石を積んでゆく
大きな石を重ねると
ちょっと上に積んだ石を押してみて
隙間に小さな石を詰める そんなやり方を
なぜだか男は知っている 男たちは
おそらく石垣を造っているのだ
そこは山のなかでもなく
遠くに海が見えるでもなく
あたかもコンピュータのなかの 何もない
まっさらながらんとした空間だ そんな
人が暮らした痕跡もない
命が存在した形跡もない いやむしろ
そこにいること自体あり得ない
存在そのものを拒絶するような
そんな場所に黙々と
彼らは石垣を積んでいる 石垣を
そこで積むというそのことに
意味があるのかどうかさえ
彼らは考えることもしない
そもそも石がどこから来るのか
誰かがここまで持ってくるのか
あるいは中空に湧いて出るのか
そんなことも彼らは知らない
そもそも考えたって無駄なことを
彼らに考える余裕はない
気づくと石はそこにあって 男はそれを
黙々と持ち上げて上へ積む ひとりでは
持ち上げるのが不可能になると
誰かが気づいて近寄ってきて
二人でそれを持ち上げる 石垣が
人の頭より高くなって それ以上
上に積み上げることができなくなると
彼らは場所を移動して 同じ作業を
また一から繰り返す けれど
いったいこれは何なんだと
気づいてはいけない
疑問が頭を掠めてもいけない ひとりでも
もし気づいてしまったら
せっかく積み上げた石垣が 一瞬にして
端からすべて崩れ去り
そうしてこの世界そのものが
あっという間に
消えてなくなってしまうだろう
だから男たちは何も考えず ただ黙々と
今日も石を積み上げ続ける
石垣は、きっちりと豆腐のようにカットされた石が隙間なくぴっちり積まれているものよりも、いわゆる穴太衆の手によるような、自然石が積まれたもののほうが好きですね、穴太衆は、比叡山の麓の坂本に住んで石積みを生業にした一派でした。坂本の町中にもそんな石積みが残っています。それを意識したわけではないけれど、なぜかこんな詩ができました。
下は、彦根城の石垣の一部。
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