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『詩』さかなが走る

さかなが走る 大通りの
三車線のまんなかを 銀鼠色ぎんねずいろ
あたかもスポーツカー然として
流線型のさかなが走る


音楽と 何かのパレードと とりどりの
中空から降り注ぐ紙吹雪と
昼間は無意味なイルミネーションに
締め付けられた街路樹の列と
マフラーが似合うクリスマスツリーと
そんなもののなかをさかなが走る


十二月は華やかで せわしくて
どこもかしこも賑やかで
それでもさかなはビルの谷間の
ちょっと忘れ去られたような 薄暗い
街の裏側もちゃんと見ている
ただかなりひずんではいるけれど


数理最適化に則ってさかなは走る
自分がおかの上を走るために 何らかの
彼は思想を選ぼうとしたが
その間違いにすぐに気づいた
さかなが陸の上を走るのは 哲学でなく
それは単なる法則なのだと


あるいはそれは実験でもあったか
何億年もの時間をかけた 壮大な
彼らに共通の仮説でもあったか 机上から
初めて陸に上がるために
研究し 計算し 激論を重ね
そしてついに法則を見つけた!


海沿いの村から内陸へ
田舎の町から大都会へ 流線型の
さかなは喜び勇んで走る
祝福の飛行船はけたたましく
チキチキバンバンを流しながら
幟旗のぼりばたを引いて空をゆく


たったひとつ
さかなに間違いがあったとすれば
彼らに行先がなかったこと 目的は
陸に上がって走ること それは今
こうして達成された!
では次は何をすべきか?


さかなが走る このままでは
サンタクロースのトナカイと
やがては競い合うことになる 目的を
そこに定めるとするならば 法則は
今すぐ破棄されなければならぬ!
大きな彼の眼が迷妄に澱む


立ち塞がる巨大な山脈が 彼をして
不安におののき 怯えさせる
しかしさかなは眼を瞠いて 眼前の
巨大な山脈に挑みかかる 法則を
彼がその肺胞に飲み込んだとき
彼は新たなものに生まれ変わる


さかなが走る 十二月が
確かに十二月としてある街へ
流線型のさかなが走る 美しい
サンタクロースの橇よりも
長く煌びやかな雪煙をあげて そうして確かに
自分は待たれていたのだと⎯⎯


彼は今
それを理解する




クリスマスで賑わう街のまんなかを、さかなを走らせてみたいとおもいました。と言っても、もちろん人間のように胸鰭を振って尾鰭で走るわけではなく、詩のように、スポーツカーに似たイメージで。初めはもっとファンタジックなものになるはずだったのが、書いているうちに全く違ったものになってしまいました。何よりさかなを、陸を走らせるのは難しいです・・・って、そういうことでもない気はしますが(汗)。

ちなみにこちらはチキ・チキ・バン・バンのオリジナルサウンドトラックらしいです。




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