『詩』山茶花
そんなにも大きな山茶花が枝を張っている
古い茅葺き屋根の山門は小さくて 八本の
柱が重そうな屋根を支えている
屋根の上に 山茶花の白い花びらがはらはらと
風もないのに舞い落ちる
山門の足元 苔生した石段に腰を下ろして
竹皮包を僕は開く まるで
白黒の時代劇映画のように
そうして塩むすびを頬張る僕だ そこにいるのは
どんな人生だったのか
けれど僕は覚えていない
塩むすびを頬張りながら 振り返って
僕は山門のなかを覗き込む
薄い盆の上に何かを乗せて
両手でそれを掲げ持ちながら 白装束の
向こうへ歩いてゆく女性がいる
山茶花の白い花びらが
女性の上にも舞い落ちる
あれは秋の終わりだろうか
塩むすびを食べ終えた竹皮包に
別離のかけらが残っている
いつか忘れてしまったはずの 見はるかす
峠の空から鳶の声が
そうしてひとつ降ってくる 塩むすびの味を
僕は覚えている
僕は生きていたのだとおもう
いつの時代だったろう
僕はどんなだっただろう? 山茶花が
こんなにも大きく育つまで
僕はここにいたのだろうか 立ち上がり
竹皮包を懐に入れて(繕いのある
木綿の着物が時代劇のよう)
山門を潜ろうとして僕は躊躇う まだそこに
白装束の女性がぼんやり立っている
盆の上には何も乗っていない
垂らした長い黒髪が風に靡き 山茶花の
花びらが雪のように降りしきる 山門の前に
僕は花びらのなかに立ち尽くす
あたかもいつかの失せ物のように
毎週月曜日には、#なんの花・詩ですか ということで、花をモチーフにした詩を投稿します。今回は山茶花。
椿と違って山茶花は花が丸ごと落ちることはなく、花びらが一枚一枚散ってゆきます。けれどたぶん、詩のように一斉に散ることはないでしょう。こちらはあくまでもイメージ。根が暗いので、どうしても暗い感じの詩になってしまいますねー(汗)。
#なんの花・詩ですか に記事をいただきました。ご紹介します。
1.くりすたるるさん。もしも、野原に花まるが咲いてたら。【不登校って、なにか詩ら?】
花まるの花。思いは息子さんから「へん」と「普通」へ。「へん」を批判することへ。とっても優しい詩でありながら、その意味は大変深いです。
2.くりすたるるさん。花まるの解答と、花まるの回答と。
上記の続編のようでもあり、新たな発見のようでもあり。何より自分で考え、自分なりの答えを見つけ出すこと。こちらも深いです。
3.フルレットさん。日曜押花美術展 vol.22
お母様へのプレゼントにと、お友だちに依頼された押し花作品。手を入れ過ぎてしまったか、という思いから文章の推敲についてへと、話は広がります。
今回もありがとうございます!
毎週月曜日は #なんの花・詩ですか で、花をテーマに詩をアップしています。お読みの皆さんもぜひ、花をテーマに記事をお寄せください。写真も大歓迎! 曜日は問いません、こちらのハッシュタグをつけて投稿いただければ、僕のマガジンという花壇に植えさせていただきます。よろしくお願いいたします。
今回もお読みいただきありがとうございます。
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