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『詩』三つのソネット



Ⅰ. メリーゴーランドに乗る


メリーゴーランドに乗る
僕らは何にでもなることができる
回転木馬に乗る
回る木馬の背の上で何になろう?


木馬が夢を追いかける
上下にリズムを刻みながら 君が
サークルの外で微笑みかける
僕は宇宙飛行士になる


この星を回しているのは僕だ
木馬の上で 今このとき
宇宙飛行士には君が見えない


別世界に行ったっきり
二度と戻らないと僕は誓う けれど
君が待っている サークルの外で



Ⅱ. 月が落ちていた


二十五時を過ぎて
ホームに月が落ちていた
今宵は満月だと
そのとき初めて僕は気づいた


夜が跨線橋の上にある
ホームに落ちた月のなかで
詩集によく似たスケジュール帳を
僕は開く その光のなかで


月が落ちてしまったので 夜が
昨日の夜より暗くなった
明日はもっと暗いだろうか


詩集にスケジュール帳が似ているのは
落ちてしまった月のせい
そこには何も書かれていない



Ⅲ. レイ・チャールズを聴きながら


切ない一日の上に枯葉が降っている
君の知らないレイ・チャールズを
聴きながら 僕は歩いている
季節感のないビルの足下を


宣伝カーのスピーカーだ
空の空隙を埋めてゆくのは この時間
街は噂話のようだ
SNSから揺り落とされた


スクランブルで立ち止まったら
君がサークルの中心になる
僕はイヤホンを放り投げる


メリーゴーランドに
今度君と乗りにゆこう
僕は宇宙飛行士になろうとおもう




タイトルを「ソネット」としてみたけれど、厳密に言うと「の、ようなもの」です。
ソネットという詩の形式にはいろいろと決まりごとがあって、それを完璧に行おうとおもうと大変です。ただ、もともとsonnetは<小さい詩>という意味の言葉から派生したものらしいので、最低限の詩型、4・4・3・3 だけは意識して、なんとなくそれらしいものにしてみました。

ソネットと言えば日本ではやはり立原道造が有名ですね。例えばSONATINE No.1という章の中の、有名な詩。

「のちのおもひに」

夢はいつもかへつて行った 山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しづまりかへつた午さがりの林道を

うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた
⎯⎯ そして私は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた・・・

夢は そのさきには もうゆかない
なにもかも 忘れ果てようとおもひ
忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには

夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう
そして それは戸をあけて 寂寥のなかに
星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう

『立原道造詩集』小山正孝編/彌生書房 世界の詩42


他にも谷川俊太郎さんなどもソネットを書いていらっしゃいます。もちろん元はシェイクスピアとかなので、海外からの、ボードレールとかランボーとかの影響が大きいでしょう。
いずれにしても、なかなか簡単ではないですね。




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