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『詩』無性に詩が書きたい夜に

無性に詩が書きたい夜があったね ノンレムと
レムとのあいだに落としてきた
言葉をたくさん拾い集めて そこで
 (それは昨夜の夢の出来事)


蒼い眸のユニコーンに 銀色の
水の鞍を君は乗っけて
長い魚網を右脇に抱え 不安げに
オレンジに光る手綱を取って
あとは今すぐ飛び降りるばかり 谷底の
黒々とうねる大蛇のような
あの恐ろしげな流れ目掛けて


けれど谷底は深くて暗い
君はしばらく躊躇ったのち 意を決して
オレンジの手綱に力を込める
ユニコーンは利口なので それだけで
前足を高く上げて大きくいななく 恐ろしさに
君は固く目をつむり
その背に力一杯しがみつく


ペガサスのように
翼を持たないユニコーンは 一直線に
谷底目掛けて突っ込んでゆく 両耳が
強い風で引きちぎれそう
眼を開けてなんていられるものか すがりついた
君を背中に貼り付かせたまま ユニコーンは
一気に水面を打ち破る


飛沫が上がり 長い魚網が
後ろへと持っていかれそう
君は思わずそれを手放す 嘲笑や
喪失感や空虚感や 失望や たくさんの
君を貶めようとする言葉たちが あぶくのように
君の顔の周りで踊り狂う
激しい渦を巻き起こしながら


深い深い眠りのなかへ
君は引きずり込まれてゆく ユニコーンの
手綱を握り締めたまま
それは無性に詩が書きたい そんな夜
手足を激しくばたつかせながら
それでも言葉の切れ端を しっかりと
君は掴んでいたかもしれない


東の空を映し出す フロストガラスから
朝 日差しがベッドに落ちるとき
握り締めた両手を開いて
君は大きくため息をつく 素晴らしい
何かとても素敵なものを
確かに捉えた気がしたのに 何一つ
両手のなかに残っていない


無性に詩が書きたい夜があったね
君はユニコーンにしがみついて ノンレムと
レムとのあいだの深い谷間に 頭から
勇気を持って飛び込んでいった
それは詩にはならないかい? 
窓の向こうで誰かが囁く
アイデアなんてそんなものさ、と




詩が書きたい、けれど書けない、な〜んにも出て来ん!・・・そんな気分を僕が詩にするとこんな感じ。書けない! ということを素直に書こうかとおもったのだけれど、それでは面白くない、というか、僕らしくない、と考えた末にこうなりました。

ユニコーンとペガサスの違いは、詩にあるとおり翼があるかないか。調べたところによれば、それ以外にも、

・ユニコーン/旧約聖書など
・ペガサス/ギリシャ神話

だそうで、全く「似て非なるもの」のようですね。だとすると、ユニコーンよりペガサスのほうがよかったかも・・・でも翼があると乗りにくそうだし。
ちなみに、長い魚網を小脇に抱えてユニコーンの背に乗る姿は「ドン・キホーテ」のパロディです。




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