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mofi|映画・答え合わせ

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ハリウッド映画を中心に、新旧の映画の構造や効果を「答え合わせ」します。
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#映画レビュー

『メガロポリス』の儚くも美しい醜態

『メガロポリス』の儚くも美しい醜態

『Megalopolis』
IMDb | Rotten Tomatoes | Metacritic
公開日:2024年9月27日(北米)
公開日:未定(日本)

概要『メガロポリス』は、かのアメリカ映画界の巨匠フランシス・フォード・コッポラが手がけた久方ぶりの監督最新作だ。それは御年85歳のコッポラが監督のみならず、脚本とプロデュースまでを兼任した渾身の力作。本人が「苦節40年の末に念願叶ったパッ

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『落下の解剖学』幾重に重なるテーマ性、高い技術力と表現力

『落下の解剖学』幾重に重なるテーマ性、高い技術力と表現力

『Anatomy of a Fall』(2023年)★★★☆。

法廷ドラマ、というより法廷ミステリーか。ジュスティーヌ・トリエ監督(『愛欲のセラピー』『ヴィクトリア』)が脚本も共著したオリジナル作品として、ヨーロッパの各賞を席巻している。

フランス南東部はグルノーブルで人里離れて暮らす3人家族。夫・サミュエル(サミュエル・タイス)の転落死に他殺の疑いがかかり、容疑者として起訴されることになる、

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『ボーはおそれている』重度不安障害の世界にひたる、笑いの2時間59分

『ボーはおそれている』重度不安障害の世界にひたる、笑いの2時間59分

『Beau is Afraid』(2023年)★★★☆。

これは大事な映画だ。湧き上がる恐怖をちゃんと笑い飛ばせれば、面白さが倍増する。

重度な精神疾患者の目線を、驚くほど壮大なスケールで再現する。それが本作の核だ。心優しいからこそ、生活に支障をきたすレベルの不安障害を抱えた男が、母にまつわる出来事をきっかけに珍道中に巻き込まれる。

途中、精神疾患の原点と思しき原体験の切れ端がたびたび割り込

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『コカイン・ベア』愛嬌あるバカバカしさ

『コカイン・ベア』愛嬌あるバカバカしさ

『Cocaine Bear』(2023年)★★☆・。

このバカバカしいプレミスに、錚々たる製作陣が並ぶ。

『ピッチ・パーフェクト』続編や『チャーリーズ・エンジェル』リブート作のエリザベス・バンクス監督作、『スパイダーマン』のアニメーション長編シリーズや『LEGOムービー』などのフィル・ロード&クリス・ミラーのコンビがプロデュース。

アイス・キューブの息子のオシェア・ジャクソン・Jr、失敗作扱

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『雪山の絆』現実からメッセージを引き出す手腕

『雪山の絆』現実からメッセージを引き出す手腕

『Society of the Snow』(2023年)★★★☆。

J.A.バヨナ監督作といえば、ディザスター・サスペンスが印象的。

タイでの津波被害を生き抜くイギリス人家族のドラマ『インポッシブル』は、津波の猛威で生き別れた家族が再会するまでの物語だった。水流や流木による怪我の仕方に至るまで生々しく描写した点が特徴的。タイで大勢が亡くなった天災をイギリス人視点で描くことに引っかかりはあるが。

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『ザ・ホールドオーバーズ(原題)』居残り学生と嫌われ教師の冬休み

『ザ・ホールドオーバーズ(原題)』居残り学生と嫌われ教師の冬休み

『The Holdovers』(2023年)★★★★。

快作。

一見既視感のあるプレミスだが、神はディテールに宿る。

アレクサンダー・ペイン監督、ポール・ジアマッティ主演といえば『サイドウェイ』のタッグチームだ。

そのコンビが、1970年のニュー・イングランドにある全寮制男子学校でのひと冬を描く。休みのあいだ、実家に帰れない数名の学生たちを泊まり込みでお守りする嫌われ教師と、母親に帰省を拒

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『アメリカン・フィクション』インテリが逆差別と衆愚に挑むとき

『アメリカン・フィクション』インテリが逆差別と衆愚に挑むとき

『American Fiction』(2023年)★★★・。

ハイブラウな映画だ。

物書きの苦悩、特に世間との感覚のズレを感じる男の憤りと、その私生活。そこへ一石を投じる行動が、思わぬ出来事のドミノ倒しを呼ぶという、シニカルなコメディ。

パーシヴァル・エヴェレットの2001年の小説『イレイジャー』を原作に、今をときめくライター、コード・ジェファーソンが監督デビューした本作。

これ、いくつか

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『ナイアド 〜その決意は海を越える〜』老いてこそ人生を楽しめる

『ナイアド 〜その決意は海を越える〜』老いてこそ人生を楽しめる

『NYAD』(2023年)★★★・。

年寄りがスクリーン上で頑張る姿にはどこか見え透いたアジェンダを感じてしまうものだが、キャラクターに尋常ならざる精神力や、若者顔負けのフィジカルが伴うと話が変わってくる。『ナイアド』に、有無を言わせぬ共感力が伴うのはそのためだろう。

2009年を皮切りに、60歳をゆうに越える高齢でキューバ沖からフロリダまでの130kmを単独泳破することに挑戦した遠泳スイマー

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『フェラーリ』栄冠の代償、速さの対価

『フェラーリ』栄冠の代償、速さの対価

『Ferarri』(2023年)★★★・。

実話に基づく人物の生涯を追うのでなく、1957年のひと夏に物語を絞ったのは『フェラーリ』の切り口の肝。

伝記ものが数十年分のめぼしい転換点を切り貼りするのとはまた違った、登場人物たちのスナップ写真を見ているような鑑賞感がある。

2時間あまりで、元レーサーで起業したエンツォ・フェラーリ(アダム・ドライバー)の二重生活、直面する経営難とテコ入れ策、共同

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『TÁR/ター』:「アーティストなら人をクズ扱いしても許されるのか」への解

『TÁR/ター』:「アーティストなら人をクズ扱いしても許されるのか」への解

『TÁR』(2022年)★★★☆。
公開:2022年11月17日(北米)
IMDB | RottenTomatoes | Wikipedia

リディア・ター(ケイト・ブランシェット)はソシオパスだ。業界のトップで活躍しながら、周囲への心理的虐待と性的搾取に勤しむ、架空のアーティスト。近年よく見られるようになった、権威を嵩にかけた抑圧と転落の一部始終が、彼女を中心にして展開する。

トッド・フィー

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『REBEL MOON — パート1: 炎の子』のエロとグロとナンセンス

『REBEL MOON — パート1: 炎の子』のエロとグロとナンセンス

『Rebel Moon - Part 1: Child of Fire』(2023年)★★・・。
公開:2023年12月21日(北米→全世界)
IMDB | Rotten Tomatoes | Wikipedia

公開前から舞台裏までスケスケな作品も、考えもの。ザック・スナイダーが『スター・ウォーズ』用にこしらえた企画が却下され、その後Netflixがオリジナル作品として拾った長編2部作。と言わ

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『グランツーリスモ』:特殊コマンドは打ち込んだ、が

『グランツーリスモ』:特殊コマンドは打ち込んだ、が

『Gran Turismo: Based on a True Story』(2023年)★★☆・。
公開:2023年8月11日(北米)
公開:2023年9月15日(北米)
IMDB | Rotten Tomatoes | Wikipedia

『第九地区』のニール・ブロンカンプが、ゲーム原作の映画化ほどフランチャイズ然とした企画を手がけるとは。ちょっと考えにくいと思ったら、ゲーマーがリアルを克服す

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『マエストロ:その音楽と愛と』模倣の技巧、物語の凡庸

『マエストロ:その音楽と愛と』模倣の技巧、物語の凡庸

『Maestro』(2023)★★☆・。
公開日:2023年11月22日(全世界)
IMDB | Rotten Tomatoes | Wikipedia

技術・芸術的に強烈な一方、金太郎飴のような型の人物語り。

才能溢れる男女が出会い、女がキャリアを犠牲にし、男は仕事で開花するが自己を隠し通せず恋に溺れ、女は耐え忍び、衝突したあと帰ってくるが不幸せに。やがて死に直面して苦悩して寄り添い、事が終

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『終わらない週末』:終わった気がしない結末

『終わらない週末』:終わった気がしない結末

『Leave the World Behind』(2023)★★☆・。
公開日:2023年11月22日(全世界)
IMDB | Rotten Tomatoes | Wikipedia

演出的にも技術的にも印象深いけれど寸止まりな印象を待つのは、明確には回収しきらない伏線もあるからだろう。その代わり、終幕後の展開を想像させるような余韻は残る。

民泊サイトを利用して郊外の豪華な一軒家を借りた白人家

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