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『グランツーリスモ』:特殊コマンドは打ち込んだ、が

『Gran Turismo: Based on a True Story』(2023年)★★☆・。
公開:2023年8月11日(北米)
公開:2023年9月15日(北米)
IMDB | Rotten Tomatoes | Wikipedia

『第九地区』のニール・ブロンカンプが、ゲーム原作の映画化ほどフランチャイズ然とした企画を手がけるとは。ちょっと考えにくいと思ったら、ゲーマーがリアルを克服するサクセス・ストーリー。

なるほど。確かに『エリジウム』『チャッピー』などの過去作品と重なる部分はある。

監督の他作品と違う部分があるとすれば、それはサクセス・ストーリーの縛りであり、割り切り。世界観構築が好きな監督で、悲劇的、あるいは自己犠牲的な結末を描くことが多いブロンカンプ。架空の世界に苦境を産み出して、その矛盾に反抗する主人公が身を呈して社会に爪痕を残す。そんな監督が、今回ははっきりと明るい結末へ観客を連れ出す。

本作の特徴は、そのための成功や失敗や苦難のハードルが、教科書通りの定位置に配置されていること。どこまでもセオリー通りな物語構造には良し悪しがある。ただ、これが順当に盛り上がってくれる点は魅力だとも言える。

わかりやすいアンダードッグ設定、見下される趣味、認めてくれない家族、唯一気にしてくれる好きな女子。トレーニングで苦心惨憺の末、かろうじて生き残り、ミスかと思いきや正しさが認められ、意志力でレーサーの座を勝ち取る。本戦では負けが続き、中間地点ではライセンス取得。束の間の勝利の味を味わうものの…。

途中、助演キャラの動機やモチベーションを軒並み疑ってしまうほどストレートな造詣なので、主人公ヤン・マーデンボロー(アーチー・マデクウィ)とコーチのジャック・ソルター(デヴィッド・ハーバー)以外はみな平面的と言い切ってしまっていい。

オーランド・ブルーム演じるマーケティング・エグゼクティブ、ダニー・ムーアは情熱の源泉が読めず、GTアカデミーのライバルたちはレースの障害物の域を出ない。ヒロインの子(エミリア・ハートフォード)は出だしのお姉さん的雰囲気に反してコロリと靡くし(金目当てか?などと邪推してしまった)、実兄は送り出してからまともに再登場しないため(観客席にはいる)ブックエンドがない。

ジャックがル・マンでクラッシュし引退したエピソードも、付き合いが長ければネットで調べて知っていてもおかしくないのだが…いや、盛り上がるからいいか、という脳内処理。リアルで生み出せたドラマの厚みを思うと、ちょっともったいない。

「ゲームでなくシミュレーター」「やり込んだプレイヤーはコースやチューニングを知り尽くしている」「でも、リアルと直面したときからが本番」ー。物語のコアはとびきり魅力的なタネがたくさんあるだけに、シミュレーターとリアルの境界線や、実家のリアルとレースのリアルの描き分けにさらなるひと押しがあれば、あるいは傑作となり得たプレミスだったろう。

その点で惜しい、と書き残してはおくけれど。レースの迫力、勝ちパターンの興奮、かつての敵が味方になる展開。鑑賞後にグッド・フィーリングを持たせるコマンドは、外すことなく正しく打ち込んでいることは確か。特殊コマンドとは言ったものの、そこまで特殊ではないことだけが心残り。

ともあれ、こだわらずに気持ちの良さを求めるなら正解、な一作。

(鑑賞日:2023年12月24日 @Netflix)

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