街の景観が人々の健康につながる??GPS×ストリートビューが解き明かす“多彩な景観”のチカラ
【タイトル】
「街を歩くだけで健康に?GPS×ストリートビューが解き明かす“多彩な景観”のチカラ」
「通勤やちょっとした外出が運動になる」という話を耳にしたことはありませんか?今回ご紹介するのは、Zhouさん、Wangさん、Widenerさん、Wilsonさん(2024年)の論文「Examining the relationship between active transport and exposure to streetscape diversity during travel: A study using GPS data and street view imagery」です。
テーマは「アクティブ・トランスポートとストリートビューで見た街並みの多様性」の関係。要は「歩きやすい / 自転車で走りやすいルートってどんな景観的特徴があるの?」というお話で、普段の移動の際に「どんな景色が見えているか」が、実は私たちの健康や運動量に大きく影響するかもしれない、という内容です。
第1章:アクティブ・トランスポート研究の新たな視点
アクティブ・トランスポート(以下、AT)は「移動そのものが身体活動になるような交通手段」を指します。たとえばウォーキングやサイクリングが代表格で、「通勤や通学の手段が運動になる」というメリットが魅力ですよね。運動が苦手な人も、移動で体を動かせばスポーツジムに通わなくても健康維持につなげられるかも……という期待感も大きいです。
一方で、街中にはいろいろな景色や道の構造があります。歩道が広かったり、緑が多かったり、建物が立ち並んでいたり。実はこうした「道のデザイン」や「景観の多様性」が、ATをどれだけ行うかに影響を与えているのでは?という問いがありました。
ところが、従来の研究では「自宅周辺の環境」だけを調べて終わってしまうケースが多かったんです。日常生活での移動全体を把握していないと、「実際にどの道を通り、どんな景色の影響を受けているのか」がわからないですよね。そこに着目したのが今回の研究。GPSデータ+ストリートビュー画像解析という最先端の手法を使って、被験者がどこをどう移動したかを細かく捉えました。
第2章:GPSとストリートビューを組み合わせた斬新な手法
● どんなデータを集めたのか?
研究では、16〜30歳の若い成人を対象に「1週間のGPSデータ」を取得。専用アプリをスマホに入れてもらい、移動軌跡を記録しました。そしてアンケート調査で「合計どれくらいウォーキングやサイクリングなどのATを行っているか」を報告してもらいました。
加えて、Googleストリートビューのような道路沿いを撮影した画像(Street View Imagery)を用いて、「道端にどんな景観要素があるか(建物や緑、歩道、空の広さなど)を分類」したんです。これはDeepLab V3という画像解析技術を使うそうで、AIが写真の中身を自動で「これは歩道」「これは建物」などと判別してくれます。
● 複雑そうだけど、ざっくりいうと?
「GPSで追跡した参加者が実際に歩いた・走ったルート上に、どんなストリートビューの特徴があったか」を、膨大なデータの自動解析で明らかにしているイメージです。アンケートでの自己申告に加えて、移動軌跡や画像分析を組み合わせることで、実際にどんな道がATを後押ししているのかを定量的に測っています。
第3章:「景観ミックス度」アップでATが伸びる?
研究のメインの結果として示されていたのは、「Streetscape Diversity(街並みの多様性)」と呼ばれる指標が、アクティブ・トランスポートの時間に正の影響を与えるかもしれない、ということ。
具体的には、緑(木や草地)・建物・歩道・車道・空など、視界に入る要素がどれだけバランスよく混在しているかをエントロピー指標で測り、そのスコアが高い(=多彩な街並みがある)ほど、ウォーキングやサイクリングをする時間が長くなる傾向が見られたそうです。
私自身も「確かに、風景が単調だと歩くのって飽きちゃうよね」と思い当たる節があります。公園がちょっとあって、ビルもあって、歩道がしっかり整備されていて……というふうに「移動中に色んなものを見て楽しめる道」は、自然と「歩いてみよう」という気持ちになりますよね。
第4章:結果をどう読む?他の研究との違いは?
本研究の大きな特徴は、「住宅周辺」だけでなく「実際に通過したルート」を捉えている点でしょう。先行研究の多くは「家の周りの緑量はどれくらいか」とか「家がどんな地区にあるか」に注目していましたが、通勤や買い物などで私たちは意外な場所を通ることが多い。
そこで、GPSを使って“人が本当に移動した経路”のストリートビューを分析したことが最大の新しい知見を生んでいます。いわば「住宅地だけでなく、移動中の環境全体が健康行動を左右する」という仮説を、より正確に検証できるわけですね。
また、街並みの多彩さをエントロピーという数値化でしっかり測っている点も新しいアプローチ。以前は「緑が多いといいよ」など単一要素で語られがちでしたが、緑+建物+歩道など複数の要素がうまく共存する状態こそが、人を歩きやすくするという視点は興味深いです。
第5章:結論と今後の展望
「歩いたり、自転車で走ったりする時間を延ばしたければ、街の景観を豊かに整備するのがカギになるかもしれない」―― これが本研究の最も重要な示唆といえるでしょう。具体的には、「一つの要素(たとえば緑)を増やすだけではなく、歩行空間や建物配置なども含めて全体のバランスをとる」ことがポイントになるようです。
ただし、論文でも言及されているとおり、被験者が若年層に偏っている・サンプルサイズがやや小規模などの限界はあります。さらにGPSデータやアンケートの限界(誤差や記憶違い)も否定できません。今後はもっと多様な年齢層、大規模都市、さらには郊外部を含めた検証が進むと、より一般的な知見が得られるのではないかと思われます。
● どう役に立てることができるだろう?
「じゃあ私たちはどうすればいいの?」というと、まずは「移動ルートをちょっと変えてみる」のが手軽な一歩。筆者自身も、最近はあえて緑道やおしゃれな街角を通るように心がけています。もちろん毎日そうできるとは限りませんが、少しでも景色のバリエーションを感じられると、歩くモチベーションも変わってくるものです。
さらに、自治体や都市計画の視点では、「景観要素をうまく組み合わせた歩行者・自転車向けインフラづくり」が期待されます。歩道を広げる、街路樹を整えるだけじゃなく、そこにバス停やコンビニ、カフェなどを適切に配置することで、人々が移動中に飽きない環境をつくるのが理想かもしれません。
研究タイトル
Zhou, Wang, Widener, Wilson (2024)
Examining the relationship between active transport and exposure to streetscape diversity during travel: A study using GPS data and street view imagery.
Computers, Environment and Urban Systems, 110, 102105 (CC BY 4.0)論文のポイント
アクティブ・トランスポートと街並みの多様性に注目。
GPSデータ+ストリートビュー画像解析で、実際に移動した道の環境を数値化。
街並みの要素が多様に混ざっているほど、歩行・自転車などの時間が増える傾向。
住宅周辺だけでなく「移動そのものの環境」こそが重要という新しい視点を提示。
都市計画や健康促進施策に役立つ可能性大。
CC BY 4.0ライセンスで公開されているので、より詳しいデータや手法が知りたい方は元論文をチェックしてみると面白いと思います。