もがくほど しずむかなしい 海だから|大阪本町さんぽと本とのであい
今日は午前中だけ仕事で、せっかく日曜に大阪に出てきたのだから、午後は久しぶりに大阪のまちを散歩してみた。
仕事後に同僚が堀江の美容院に行くというので、一緒に本町と四ツ橋の間あたりの定食屋でお昼を食べた。
余談だが、昨年北海道から転職してきた同僚が、行きつけの美容院を見つけるほど大阪に馴染んでることが、なんだか嬉しいのだった。
同僚を見送った後、さてどうしようかと悩み、「悩んだら本屋」という法則に従って本屋を目指して歩き出した。
大きなジュンク堂に行くつもりだったが、その途中の雑居ビルにある『toi books』という小さな本屋さんを発見し、ふらりと寄ってみることにした。
以前に天王寺のstandard book storeで本を買った際に、このお店のしおりが挟まっていて気になっていたところだ。
toi booksでは、出版社ごとや作家ことではなく、本棚に「季節の移ろい」や「考えるを考える」などのテーマごとに本が並べられている。
それを見ているだけで心が満たされた。
本を好きな人が大切に売っている本屋、というのは空間そのものが本みたいである。
たっぷりと本の空間に浸った結果、ビビッときた本(後述)を衝動買いし、散歩再開。
靱公園の緑を抜けて、大阪に住んでいた時代に気に入ってよく行っていたカフェ『ペチカ』でお茶をしながら、買った本を読むことにした。
さて今回選んだのはこの1冊。
あなたのための短歌集|木下龍也
短歌は大人になってからふんわり好きになったが、穂村弘さんの短歌くださいシリーズを数冊持っている程度である。
toi booksで、なんとなくタイトルを見て「この【あなた】に私は含まれているのかな?」と、少し意地悪というかひねくれた心で本を開いてみた。
すると、開いたところに著者の直筆で下記の短歌が記されていたのだ。(サイン本だった!)
これを見た瞬間、何か内からこみあげてくるものがあり、ああ。これは間違いなく私のための短歌集だな、と思った。
この本は、木下さんが「あなたのための短歌1首」として、メールで受けた依頼に対して短歌を作り、贈る形で個人販売していたものを収録した本だ。
見開き右側に依頼内容、左側にそれに対応する短歌が載っている。
たとえば、こんな感じ。
これらは依頼主だけに向けて作られたものであり、正しくは、別に私のために作られたものではない。
それでもやっぱり、これは私のための短歌集だ、と思ったのだった。
ペチカで一首一首を読み進めながら、何度も何度も心がふるえ、不覚にも涙が止まらなくなってしまった。
カウンターの死角で本当に良かった。
昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で、大竹しのぶ扮する歩き巫女の、こんな台詞を思い出した。
同じような悩みを抱える人がいること、その気持ちをすくいとって短歌で表現してくれる人がいること、その事実にこんなにも救われる。
私はこの本を、数ヶ月後に双子を出産する予定の元職場の同期にプレゼントしたいと思った。
先日久しぶりに会った時に、母になる不安や喜びを、たくさん語ってくれた。
同じ職場にいた時、お互いろくなことがない毎日の中で、同期とこっそり本の貸し借りをすることが、ささやかな楽しみであり、働くことの励みになっていたのだった。
偶然だが、短歌の依頼のひとつに「自分の名前に入っている『織』をテーマにした短歌がほしい」というものがあった。
同期の名前にも『織』がつく。
この本を、同期も「私のための短歌集」と感じてくれたら嬉しいと思う。