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なにか

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なにかしらになる可能性のあるもの
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#オリジナル小説

⑮

私の答えを聞いて宰相は足を止め、振り返った。
「成る程 そう来ましたか 然しそれも当然か」
一頻り一人で頷いて
「では、トングだけ準備してきますね」
と再び船倉へと向かい、その姿を消した。

「さて、こうなったからには私のやることは一つですな」
公爵は羅針盤の針を12回クルクルと時計回りに回すと、それを近くにあった大砲(20門ほど備え付けられていた)に装填した。
そして私たちが良く分からないまま見

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⑭

私のドッペルゲンガーは相変わらず実に嫌な笑顔をこちらに向けて
「御挨拶ですな 私はただ貴方に我がクイーンの恵みをあげようと思っただけなのですよ」
と言うと、内大臣が汲んでいた海水に袖を浸してからこちらにやってきた。
「さあ 舐めて見なさいこの砂糖中毒者」
グラスの隙間から奴の濡れた袖が差し込まれた。
私はしばらくためらっていたが、奴が焦るでもなくニヤニヤしながらこちらを見下ろしてくるのが続くのがい

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⑬

三羽の論争は続くにつれて姦しさを増した。
私は大司教に責める目を向けた。
大司教は今度は鍵盤ハーモニカを取り出すとそれを私のもとに持ってきた。
「これで、プロヴァンス民謡の三王行進を演奏してください そうすればあの鳥たちは言うことを聞きます」
まじかーと思いながら、私は演奏を始めた。
御器齧りサイズの鍵ハからでる音は、それでもちゃんとガラスを超えて外に響いているらしかった。





吹き終わ

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⑫

大司教が調理場へとやってきた。
「随分と冷え冷えしてますな 何がありました?」
私は輔弼大官がノーチラスを釣ったこと、楽師団長がそれを調理しようとしたこと、内大臣と公爵がトイレの確認をしたこと、そして大司教以外の影たちが三つ巴で意見対立していることを話した。
「内大臣と宰相は粗食派で他三人は美食派、そして輔弼大官は中華好みな一方楽師団長は洋食好みというわけだ。公爵は内股膏薬ムーヴ中だ。」
「なるほ

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⑪

私は下を見ないようにしながら楽師団長に尋ねた。
「しかし浮上するだけならこんな高いとこでやらずとも好いのでは?」
「ここだと高く飛べている気分になれますからな」
楽師団長は面白い形の装置を頭に着けたまま、まじめな顔で答えた。

正直私はあきれたが、全力ジャンプする方が高く飛べるはずの事に熱心に取り組んでいるのを横で見るのも面白かったので、何も言わずにクイーン・うなぎの事を切り出した。

「知らない

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⑩

「では、いつになったら安定するのだ」
私は御器齧りの姿で宰相に尋ねた。
「固定するのはあなたが女王と出会う時ですが、このワイングラスから出してもいいくらい安定するのはこの船が陸についたときでしょうな」
私は気が楽になった。
船に閉じ込められるのもワイングラスに閉じ込められるのも、この青一色の世界ではそう変わらない。

私は宰相に、他の影の様子を見に行きたいと伝えた。
ご丁寧にも片目を押し付けた状態

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⑨

私は公爵の言う、「部屋の隅に這えたキノコ」が気になり、場所を聞いた。
公爵曰く、蔵の隅に瓶詰めの棚があり、その隅にあった瓶の中で育っていた、との事だった。
そんな物よく食うになるなと思いながら、舵を取るよう言った。
公爵は、私がですか、みたいな顔をしたが、私の顔をみると、分かったような顔をして舵にとりついた。
そして私はキノコがあったところへ向かった。

件の瓶はすぐ見つかった。一歩手前に引いてあ

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⑧

主はこちらを見据え、答えた。
「木が舟となってしまえば、島の方向も距離も分からなくなることだ。あの島は木の根元から見つけられない位置にある。」

私はしばらく沈黙した。そして
「探せばよい」
と言った。

主は笑って頷いた。

そして我々は再び上昇を開始した。
そして梢にたどり着いた。

主は梢の先端の細くなっているところに取りつき、その体で昇り螺旋をつくった。
そして梢の先端を咥え、何事か唱えた

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⑦

輔弼大官は横目で私を見た。

「御前は私に名付けられることを望むのか?」
蛇は私の問いに気を良くしたようだった。
「これはこれは、全女性に共通する望みを儂に叶えさせてくださるとは。
それが出来る御方であれば、名付けられることを否むはずがないな」
公爵が小声で説明した。
「全女性の望みというのは自ら望むことを成す事だ。老婆が昼か夜かの半日だけ若娘に戻れるという伝説のネタだったか。」
宰相が
「すると

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⑥

私は首を振った。

宰相が瓢を取り出した。
「そろそろこいつを使う時ですかな」
彼はそういって内大臣と大司教を交互に見た。

「私はまだ時期尚早だと思うのだが…」
「彼がその瓢に興味をもてば、その時が来たということでは?」
内大臣と大司教は順に応えた。

「では」
宰相は私に問いかけた。
「この瓢を好きにしていいとして、何かやることを思いつきますか?」
「水を貯める」
私はたいして間を置かずに答え

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⑤

宰相は苦笑した。
「兎も角、この井戸を調べて見なくては」
そういって彼は石壁の中を覗き込んだ。

私もそれに倣った。

中は砂で埋まっていた

大司教が、
「水を汲めますか?」
と聞いた。

「砂で埋まっている」
というと
「では何かの種を植えて、その根から水をくみ上げるのがよいでしょう」
との答えが来た。

随分と水にこだわるな、と思ったが、水の存在を考えると喉が渇いてくるのも事実であった。

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④

「この砂は」
内大臣が口を開いた。
「過ぎ去った時間としての死なのだ」

過ぎ去った時間における万物は女王の光を浴びると情報として硬化してしまう。そしてじわじわとその形も崩れ、残るのは意味を失った情報の痕跡、つまり文字だけとなる。
我々が歩いてきたこの砂漠の砂は、その文字でできておるのだ。と。

「ときに内大臣」
公爵が問うた
「この砂地が過ぎ去った時間としての死でできていることは私の見解と一致す

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③

進みながら、私は影に尋ねた。
「もしいつまでも、何事も起こらなければどうするのだ?」

宰相の影が答えた。
「その時はどうしようもない
だが、お前が御前として存在する存在なら、そうはならんだろう」
私はその理由を問うた。
「この世界は女王自ら光源となって映し出す映画のようなものだ
そういう意味でこの世界で女王の一部でないものは何もない
だが、先の言葉が正しければ、お前はそうではない
異なる二つがぶ

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②

学士団長はこう語った。
「嘗てバビロニア王がアラビア王を自らの迷宮に招き、その迷う姿を笑った
それでアラビア王はバビロニアを征服し王を砂漠に置き去りにしたのだ

また、有る天才は自らを狙うものを罠にかけ、鏡で囲まれた空間に閉じ込めた
時間がたって水を求め出した彼らに対し、彼は雨の音を流してやったそうだ

また、ある迷宮の部屋の一つもやはり砂漠でできているらしい
そこは花嫁と花婿が式を挙げる部屋でも

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