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私は公爵の言う、「部屋の隅に這えたキノコ」が気になり、場所を聞いた。
公爵曰く、蔵の隅に瓶詰めの棚があり、その隅にあった瓶の中で育っていた、との事だった。
そんな物よく食うになるなと思いながら、舵を取るよう言った。
公爵は、私がですか、みたいな顔をしたが、私の顔をみると、分かったような顔をして舵にとりついた。
そして私はキノコがあったところへ向かった。

件の瓶はすぐ見つかった。一歩手前に引いてあったのは、公爵が自分の目印にしたのかもしれない。
中にはごく普通の茶色く丸い傘をもつキノコが生えていた。
成長が早い種類なのだろうか。公爵が採った跡の、その上から伸びて、もう先端が瓶の口に届きかけている。
匂いを嗅いでみたが、特に変わった匂いではなかった。
指を突っ込んで爪の先に少し削りとって、口に運んだ。
びりっとした感触がして、目の前が白くなった。

気づいたとき、バカでかい目のような物体がこちらをじっと見ていた。
周りは変にピカピカした透明なもので丸く囲まれており、六本の脚を突っ張ってどうにか滑らない様に体を支えた。
暫くして、正面の円い物体は宰相の目だと気付いた。
私はどういう訳か、例のワイングラスの中にいる虫、おそらくは御器齧りになっていた。

仕方がない。私は宰相と意思疎通を図ることを試みた。
「宰相、聞こえるか」
「聞こえないですね」
「今はパラドックスいってる場合じゃない。この現象について何か知らないか」
「知らないことはないですよ」
「なら知ってることを教えてくれ」
「その前に聞きましょう、あなたは誰ですか?」
「私は私として存在する存在だ」
「では今の状況の何が問題です?」
私はしばし黙考した。
この姿でも主や影たちがきちんと私を私だと認識しているのであれば、何も問題ないという結論に辿り着いた。
「では、我々はあなたをゴキブリと信任いたします」
丸め込まれた気もしたが、宰相が私を御器齧りにさせておくつもりなら、現時点ではどうしようもない。
私はうんと答えた。
そして、ここから出すよう求めた。
「其れには賛成いたしかねますな。あなたは今ゴキブリとしての自己存在を定着させたばかりで不安定だ。他の存在から異なる目線を向けられると、それに反応して奇妙な合成が発生してしまうでしょう。」
宰相の言葉は私に不快感を催させた。
自分が予測不能なキメラとなるのは耐え難かった。

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