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私は下を見ないようにしながら楽師団長に尋ねた。
「しかし浮上するだけならこんな高いとこでやらずとも好いのでは?」
「ここだと高く飛べている気分になれますからな」
楽師団長は面白い形の装置を頭に着けたまま、まじめな顔で答えた。

正直私はあきれたが、全力ジャンプする方が高く飛べるはずの事に熱心に取り組んでいるのを横で見るのも面白かったので、何も言わずにクイーン・うなぎの事を切り出した。

「知らないことはないですよ」
「この船でそう答えるのはやってるのか?あとみんな敬語だな。」
「船長は敬うものですから」
「なるほど。で、クイーン・うなぎとはどういうものなんだ?」
「世のあらゆる『言葉にしたら消えちゃう関係』を生み出す存在です」
楽師団長の言葉に、何故か宰相がむせた。
彼は無言で私の入っているワイングラスを楽師団長に手渡すと、onmayuragirandeysowaka と繰り返し呟きながら甲板へと降りて行った。

楽師団長はワイングラスを目に当てながら
「なんだかんだであの人ミソだからなあ」
と呟き、私からノーチラスの一件について聞き出した。

「面白いですな ですがクイーン・うなぎを探すのはやめた方がいいです」
「何故?」
「あれはこの水を出た瞬間死んでしまうんですよ」
「それでかわいそうだと?」
「まあそうですね クイーン・うなぎは一体しかいないので、そいつに死なれるとどうなるかちょっと良く分からんのですよ」
「ではどうすればいい?」
「とりあえずそのノーチラスとやらに話を聞きに行きますか」

ノーチラスは甲板の船首側の端の隅にてうねっていた。
楽師団長は宰相と同じくワイングラスを目に当てたままそこまでやってきて、ノーチラスに話しかけだした。
「貴方のような存在に寿命はあるのですか」
「おそらくはあります けど かなり長いと思いますよ」
「自己複製はしないのですか」
「よくわかりません」
楽師団長はノーチラスの体表を触りだした。
一通りその滑ってそうな皮膚を撫でまわした後、彼はしゃがんで無言で考えている風だったが、立ち上がると
「とりあえず食ってみますか」
と言った。

余りにも意外な案だったので私は思わず羽を震わせた。
「本気で言ってるのか?」
「ええ こいつが名前通り『動くものの中の動くもの』なのかチェックするには解剖するのが一番です」
「だとしてそれを何で食わにゃならんのだ。」
「私がクイーン・うなぎをもったいながっているからです」

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