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「この砂は」
内大臣が口を開いた。
「過ぎ去った時間としての死なのだ」

過ぎ去った時間における万物は女王の光を浴びると情報として硬化してしまう。そしてじわじわとその形も崩れ、残るのは意味を失った情報の痕跡、つまり文字だけとなる。
我々が歩いてきたこの砂漠の砂は、その文字でできておるのだ。と。

「ときに内大臣」
公爵が問うた
「この砂地が過ぎ去った時間としての死でできていることは私の見解と一致する。
然し、それと先ほどの『息を吐け』という言葉との間にどのような関係があるのか?」

「私の見解では、女王ならざるものはこの世界を構成する時間、例えばこの砂だが、それと異なった独自の時間を生きている。然し、この時間はこの世界では普通は女王の時間に取り込まれて隠れてしまう。それを顕現させるためには彼の時間と彼を結ぶ『呼吸』に依る必要があるのだ」

内大臣は答えた。この件については宰相も同じ考えだったらしく、うんうんと頷いていた。

私は考えた。この砂がまたこの世界の時間でもあるならば、この砂を掘り進めた底は時間の果てなのではないか?そこに女王はいるのではないか?

私はこのことを影に話した。

内大臣が答えた。
「私はその可能性を認める。然しこの砂は掘ってもすぐ崩れて穴を塞いでしまう」

宰相が言った。
「掘る方法については私の考えでうまくいくはずだ。お前が反時計回りに延々とその場で回転すればよい。我ら六人が日時計の針となれば、時を巻き戻して砂を巻き上げることも可能だろう」

影は皆なるほどという顔をした。

そこで私は、その言葉に従って回転を始めた。

六つの影が私の周りを廻り、風の如く砂を跳ね飛ばした。

ある程度すると、私は自分がどこを向いているのかわからなくなってきた。
ハジアという薬には人を廃人たらしめるほどのを酩酊作用が有るらしいが、それに匹敵するのではと思われる強烈な感覚が私を襲った。
私は再び地面に倒れた。

やはり吐き気がした。
私は息を吐いた。

吐き気が治まって、私はゆっくり立ち上がった。

六つの影が、やはり私を取り巻いていた。

ただし、私の隣にはこれまでなかったものが有った。

それは古い石造りの井戸であった。

宰相が一言
「カオスだ」
と漏らした。

輔弼大官がそれを聞いて、
「蛇は蝶を食わぬから、好都合でしょうなあ」
と皮肉な調子で言った。

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